くらし 〔特集〕ともに生きる(5)

◆〔SECTION5 ともに動く〕市民が主体となって続ける枠組みがあることが大事
占部(うらべ) 真珠(しず) アイリーンさん

宗像市では、子どもから大人まで誰もが安心して暮らせる多文化共生の地域づくりを進めています。一体どんな取り組みをしているのか、宗像市役所でグローバル人材育成に携わる占部さんに、話を伺いました。

◇日本語の壁を越えるための基盤づくり
「宗像市でもここ数年、外国人住民が大きく増えています。製造業や物流関係など多様な企業が立地しているため、技能実習生、エンジニア、留学生など、さまざまな立場の人が宗像を生活の拠点として選ぶようになってきました。
外国人住民に関する課題の多くは、日本語が分からないことをきっかけに生まれるものです。そこで宗像市ではまず、言語の壁を乗り越えるための基礎づくりに着手しました。その一つが『やさしい日本語講座』です。行政職員が難しい専門用語を避け、外国人にも伝わりやすい言葉に言い換えるスキルを身につけることで、窓口での説明がより理解しやすいものへと変化しています。これにより、日本語に不安を抱える住民でも安心して行政サービスを利用できる土台が整いつつあります。
市立学校でも、外国にルーツをもつ子どもたちのサポートを強化しています。宗像市では、アメリカ出身で日本国籍を取得した大学准教授を講師に迎え、『見た目と国籍は一致しない、見た目で判断してはだめだよ』と伝える、出前授業の活動を行っています。これは、子どもたちへだけではなく、教師への大きなメッセージにもなっています。教師の理解やささいな声かけが、子どもがクラスに馴染めるかどうかを大きく左右するためです。
さらに、長期休暇中の日本語力低下という課題に対応するため、夏休みにはボランティアによる宿題サポートや日本語学習会も開催しました。外国人の家庭では、保護者が日本語で宿題を見られないという課題があり、それを補う場として大きな意味があります。冬休みも継続予定で、『子どもが行くなら私も参加してみようかな』と、言ってくれる保護者も出てきています」。

◇地域全体で考える多文化共生
「宗像市には、宗像地域国際交流連絡協議会という市民団体があり、大学生サークルと協力して、外国人家庭の子どもや保護者の交流会を二カ月に一度開催しています。宗像に転入してきたばかりの家庭にとって、同じ境遇の人と出会える場は大きな安心になります。お月見会、クリスマスリースづくりなど、気軽に楽しめるイベントを学生たちが中心になって運営しており、地域企業の協賛も大きな支えです。行政では難しい柔軟な活動ができるのは、まさに市民団体の強みです。宗像市内には日本語学校が二つありますが、技能実習生などの単身で暮らす外国人は、こうした学校に通っておらず、地域とつながる機会が限られているという課題もあります。
一方、子どもたちの英語力向上を目的とした『イングリッシュ・キャンプ』も実施しています。これは、一日中英語だけを使って生活するプログラムで、少人数グループで外国人講師と過ごすため、通常の授業よりも約二倍の会話時間を確保できます。英語を使うことへの抵抗感が減り、自分の考えを英語で話せる力を育み、加速する多文化共生社会に、対応できる力を身につけるのが目的です。
こうした多様な活動は、市民団体、企業、大学などと行政が連携することで実現しています。市民が主体となって続ける枠組みがあることで、持続可能性が高まります。日本語教育も国際交流も課題は尽きませんが、『まずは子どもから』。その環境が整えば、地域全体の受け皿が確実に強くなる。宗像市の取り組みは、まさにその方向へ着実に進んでいます」。

◇占部(うらべ) 真珠(しず) アイリーン
宗像市教育部教育総務課地域教育連携室グローバル人材育成係長。45歳。宗像市役所入庁12年目。好きな言葉は『凪』。

◇宗像市をのぞいてみよう やさしい日本語講座、出前授業、イングリッシュ・キャンプ
宗像市では、ボランティアによる宿題サポートや日本語学習会を始めさまざまな活動を市民団体、企業、大学などと行政が連携しながら行っています。
市民主体の取り組みが多く、宗像地域国際交流連絡協議会は設立して20年以上も続いています。

◇子どもたちに生きる力を 令和7年度人権講演会
11月21日、若宮コミュニティセンター「ハートフル」で人権講演会を行いました。
講師は、参議院議員の下野六太さん。「AIの時代をしなやかに生きるには~ひきこもり不登校予防について~」と題して、講話を行いました。
中学校教師としてさまざまな子どもたちに接してきた下野さん。強くたくましく生きるには、たくさんの経験を積み自ら考える力を養うこと、小さな成功体験を積み重ねることが重要だと説くとともに、周囲の大人も子どもの見本であることが大切だと話しました。