子育て 連載 阿蘇のチカラ、ここから

■阿蘇の未来を照らす笑顔
イベントの一角で、制服姿の高校生が笑顔を交わす光景。
阿蘇中央高校の生徒たちは、日々の小さな活動を通して、地域に温かな灯りをともしています。
その姿は、私たち大人にとって大きな希望です。

「こちらで靴を脱いでくださいね!」「気をつけてね!」
会場の入り口から、明るく響く声。あるイベント会場での光景。制服姿の高校生たちが、ふわふわ遊具の前で子どもたちを出迎えています。
その姿は、まるで優しいお姉さん。まだ慣れない子が不安そうに立ち止まれば、そっと目線を合わせて微笑む。ほんの一言が、子どもの表情をふわっと変えていきます。
笑顔が伝染する。その様子を見ている大人たちの頬まで、自然と緩んでしまうのです。

○会場がまるごと変わる、高校生のちから
「高校生がいるだけで、空気がまるで違うんですよ」。
そう語るのは、会場を見守っていた市観光課の秦(しん)課長です。「子どもたちが制服のお姉さんに話しかける様子がとても微笑ましくて。お客様、特に親御さんがリラックスして過ごしているのが伝わってきます」。
若い力には、不思議な魅力があります。計算やマニュアルには載らないけれど、確実に場を温かくする力。空気がほぐれ、人の心の距離もふわりと近くなる。
そんな雰囲気を生み出していたひとりが、阿蘇中央高校総合ビジネス科3年生の森島優美(ゆみ)さんです。

○緊張から自信へ 1年半の成長物語
ふわふわ遊具の受付を終えた森島さんに声をかけると、少しだけ肩の力が抜けたような表情で、こう話してくれました。
「最初は本当に緊張しました」。
高校1年生の夏。初めてボランティア活動に参加したときのことを振り返る言葉です。
それからの1年半、彼女は学童保育や観光イベント、高齢者向けのスマホ教室など、10回以上にわたり地域の活動に関わってきました。
「いろんな経験をさせてもらいました」。
その一言のなかに、出会った人たちの顔や、積み重ねた時間がにじんでいます。時には混雑した会場で、次々にやってくる来場者への対応に追われることもあったといいます。そうした経験のひとつひとつが、今の彼女の動きをつくっています。
「いつも笑顔で接することを心がけています」。
森島さんが自然に口にしたその言葉は、彼女の姿勢そのものを表しています。大きな声で呼びかけ、子どもに目線を合わせ、注意を促す。そのひとつひとつに、丁寧さと優しさが感じられました。
「『ありがとう』『元気をもらえた』『高校生が頑張っているのを見るとうれしくなる』と声をかけてくれる人がいる時が、一番うれしい瞬間です」。
それは、自分の行動が誰かの心に届いたことを知る瞬間。小さなやりとりのなかに、大きな意味がある。そんな気づきが、今日の森島さんを支えているのかもしれません。

○「阿蘇が大好き」その思いが原動力
なぜ、これほど熱心にボランティアを続けるのでしょうか?そんな問いに、森島さんは迷いなく答えてくれました。「この阿蘇が大好きなんです」。
その言葉は、まっすぐで、少し恥ずかしそうでもありました。「だから、少しでも地元の役に立てたらうれしいなって思って」。
きっと、その気持ちが彼女を動かしているのです。見返りを求めるためでもなく、誰かに褒められるためでもなく。
将来の夢を尋ねると、彼女はこう答えました。「ホテルや観光の仕事がしたいです。いろんな人に阿蘇の魅力を知ってもらえたらうれしいなって」。
好きな場所を、誰かに伝えたい。その思いが、彼女の未来を照らしています。

○大人たちも、励まされる存在
「高校生の頑張る姿を見ていると、阿蘇の未来は明るいなって思えます」。
観光課長の言葉には、実感がこもっていました。「人手が足りて助かる、という以上のものがあります。彼らの存在が、会場全体に温かい空気を運んでくれるんです」。
若い世代が地域に関わるということは、新しい風が吹くということ。それはときに、地域の空気そのものを変える力になります。

○小さな行動がつくる、静かな流れ
森島さんのような高校生たちが見せる「小さな親切」。そのひとつひとつが、まちの印象を少しずつ変えていきます。
声かけ、気配り、見守り。どれも目立たないかもしれません。でも、それが積み重なれば、大きな力になります。
まるで、雨粒が地面にしみこみ、やがて地下で川となって流れ出すように。今は見えなくても、確かな流れが、少しずつ未来を動かしているのです。

○そして、未来はもう始まっている
誰かのために、自分ができることをする。それは特別なことではないのかもしれません。
でも、そうした積み重ねこそが、地域の未来をつくる土台になっていく。
制服姿の高校生たちが、今日もイベント会場の一角で、誰かを笑顔にしています。彼らの存在が放つやわらかな光が、今この瞬間も、阿蘇をそっと照らし始めているのです。