しごと [特集]ニセコに広がるワインの輪(3)

◆ワイン完成目前!スパークリングワイン造りのハイライトをレポート
2月12日、ワイナリー開業を目指す3人を対象に、ニセコワイナリーで行われたワイン造りの勉強会の様子をまとめました。

1.ルミアージュ(動瓶)
瓶内での2次発酵後、規定の期間熟成させたスパークリングワインの瓶内にはオリが発生します。この濁りの原因となるオリを取り出すため、ピュピトルと呼ばれる瓶を逆さまに固定する専用の台にワインボトルを差し込み、全部で45回、1日2回ずつ定期的に瓶を1/8(45度)回すことで、ワインを濁らすことなく瓶口にオリを集める工程です。
※オリ…ワインの中で発酵に伴って発生する浮遊物や沈殿物(タンパク質、ポリフェノール類)

2.デゴルジュマン(オリ飛ばし)
瓶口に集められたオリを取り除く作業です。まず瓶口をマイナス25度の不凍液に約10分間ほど浸し、ワインと一緒にオリを凍らせます。この状態で王冠を開けると、内部の強い気圧により、凍ったオリが勢いよく弾き出されます。

3.コルク打ち・ワイヤー掛け
シャンパン用のコルクはマッシュルームのような形をしています。これは瓶の中で発生した強い圧力に対抗してしっかり閉じ込めるよう、通常より太いコルクを機械で強く絞って打ち込み、さらに瓶の中の圧力でコルク栓が押し出されないようワイヤーで止めているためです。瓶口の上は丸く、瓶口に入る部分は細く変形したものになっています。

4.ラベル貼り
貼付ラベルは、事前に税務署へ届け出し、酒税法で決められた表示ルールに沿ったものとして承認を得られた後に使用できます。ニセコワイナリーでは、ラベルを効率よく貼付するため、ローラー式の機械を活用しています。
それぞれの個性あふれるワインを表現した、素敵なラベルに仕上がりました。

◆ワインでニセコをまちおこし
それぞれが思い描くワインを追い求め、日々奮闘する4人の熱い思いをお聞きしました。

◇「ニセコは日本のシャンパーニュ」と呼ばれる日が来るまで
・ニセコワイナリー 本間 泰則さん
私はワイン造りにおいて、栽培から醸造までかけられる時間はすべて手にかけ、より良いものを求めて挑戦し続けることを大切にしています。また、ワイン造りの伝統的な手法として確立されているシャンパーニュ方式を徹底的に理解し、一つのプロセスとして忠実に踏襲しています。
ニセコ町には国内外から多くの観光客が訪れ、高品質なものを求めるマーケットがあるなど、ワインの付加価値を高める好条件がそろっています。この恵まれた環境を生かし、さらに高品質なワインに仕上げていきたいと考えています。そしていつか、「ニセコは日本のシャンパーニュ」と呼ばれるような場所にしたいです。
1人で始めたワイナリー事業でしたが、新たに3人の仲間が増えたのは素晴らしいことだと思っています。この3人には、ワイン造りの真髄を理解し、ニセコらしさのあるワインを造ってほしいと願っています。ワインへの熱量を強く持ち、理想のワインを造るだけでなく、「地域のために」という価値観を持って挑んでほしいです。
ワインツーリズムは、町の基幹産業である農業と観光をつなぐ新しい産業の形になると考えています。彼ら自身が積み上げてきた経験を最大限生かし、ニセコと言えば「ワイン」と言われるような新たな産業を興すメンバーになってほしいと思います。

◇羊蹄の上のカシオペアに乾杯!
・ニセコ・カシオペアビレッジ 辻 義光さん
52年前、まだ日本で作っているワインが無かったころに洋酒を取り扱う店で働いていた経験があり、ワインの基礎知識は昔からありました。今住んでいるところは生まれ故郷で、とても見晴らしがいい場所です。親が残してくれたこの土地もあるし、ワインの知識もあるし、本間さんのこともよく知っているし、せっかくなら「自分が死ぬときに飲むワインを作りたい」と思うようになりました。ブドウを育てながら愛犬と遊び、完成したワインで夜空に乾杯するような、優雅なスローライフを描き始めました。
2019年からブドウ栽培を始め、600平方メートルの畑に苗木200本を植えましたが、植栽から3年後の2022年、2023年は収穫することができませんでした。大群のスズメバチにブドウの実をかじられ、ワインの元となる果汁がなくなってしまったためです。この経験を踏まえ、昨年はハチを駆除する薬で対策し、約200kgのブドウを収穫。約150本のワインを完成させることができました。「植物は足音を聴いている」と言いますが、ブドウ栽培も同じく、毎日丁寧に面倒を見ることはとても大切だと思っています。
今後は、ワイン事業を引き継いでくれる後継者を探し、ワイナリーと宿泊施設を備えたレストラン(オーベルジュ)を作りたいと考えています。この実現のため、5年後にはワイナリーの法人化と醸造免許の取得を計画しています。