しごと [特集]ニセコに広がるワインの輪(4)

◆ワインでニセコをまちおこし(続き)
◇ワインを通じて発酵の素晴らしさを伝えたい
・LaLaLa Farm 服部 吉弘さん
これまでに、農業を通して発酵の仕組みを伝える講座やワークショップを開催しており、昔からワインで発酵のメカニズムを伝えられたら一番説得力があると思っていました。また、子どもが生まれたことがきっかけで、今までの野菜栽培から新たな農業スタイルに変えたいと思うようになりました。
ワインはたくさんの魅力にあふれています。ニセコの風土(テロワール)を表現できることや、賞味期限がなく古ければ古いほど価値が上がること、さらには多くの人を魅了する華やかさを持っています。そして、僕が一番大切にしている「発酵」をまさに体現できる、魅力ある加工品です。
2020年からブドウ栽培をスタートし、1haの畑に2,000本の苗木を植えました。これまでやってきた野菜栽培とは全く異なり、最初は戸惑いました。特に、枝の剪定(せんてい)は方法が分からずとても苦労したため、今は本間さんに少しずつ教えてもらいながら、丁寧に進めています。
ブドウ栽培は分からないことが多く、大変だと感じることもありますが、日々新しい発見があって充実しています。農業は自然環境の影響が一番大きいので、これからニセコに合ったやり方を見つけ出していきたいです。
今後は、2030年にワイナリー開業を目指しています。高品質で圧倒的なものを作り、ワイン造りを通して発酵の仕組みや発酵の素晴らしさを伝えていきたいです。

◇自分が経営するレストランでオリジナルワインを提供したい
・チセガーデン 平手 原野さん
2020年の春、先輩農家の服部さんに影響を受けてワイン造りに着手することを決めました。以前、新婚旅行で行ったイタリアのワイナリーの光景が浮かび、自分の土地にブドウ畑の景色が広がっていくのが想像できました。
2021年からブドウ栽培をスタートし、1haの畑に2,000本の苗木を植えました。これまではほかの事業で忙しく適切な栽培管理をできていませんでしたが、本間さんをはじめ、レストランで縁のあったワイン造りに取り組む仲間にも教えてもらい、日々栽培管理に努めています。
また、昨年4月から1年間、北海道が主催する「北海道ワインアカデミー」の研修を受講し、ブドウ栽培や醸造技術、マーケティングなどの基礎知識を学びました。今までは木の管理や剪定(せんてい)の仕方が分からず苦労しましたが、ワインアカデミーに入ってからは基本が分かるようになり、これまで失敗してきた原因も知ることができたのでとても役立っています。
今後は、2030年のワイナリー開業を目指しています。自分が経営しているレストランで、自家栽培の野菜とともにオリジナルワインを提供することが夢です。また、レストランで出た生ごみなどをたい肥化して野菜やブドウに還元し、自然循環ができるワイナリーにしたいと考えています。自然豊かなニセコの風土を感じられるワイナリーを目指しています。

◆ワインを町の新たな観光資源へ
たった一人の挑戦から始まった、ニセコのワイン造りの歴史。環境に優しい有機農法にこだわり、何度も研究を重ねて作り上げたワインと、次世代の育成に力を注いできたニセコワイナリーの取り組みは、町にワイン産業を根付かせる第一歩につながりました。
新たにワイナリー開業を目指す仲間が生まれ、同じ志を持った4人が結集し、ニセコのワイン造りの新たな歴史が今、幕を開けようとしています。それぞれが持っている個性と、町の豊かな自然環境、市場特性が相乗効果を生み出し、ニセコのワインが町の観光資源として大きく成長していくことでしょう。
ワインツーリズムが、町の基幹産業である「農業」と「観光」の両方をつなぐ新しい産業のカタチになるまで、彼らの挑戦は続きます。