しごと 躍動する羽根(2)

壮絶な寿司修行を終え、一度、鷹栖町に帰ってきた山﨑さん。次のステップである「海外に行く」ことの準備を進めていましたが、新型コロナウイルスによって一時中断を余儀なくされます。
これを機に少しゆったりとした時間を過ごそうと思った山﨑さんは、父の所有する山に籠り、自然に囲まれた環境で映像関係の勉強をしようと考えます。
海外に行きたい気持ちを抑えながら過ごしたこの期間では、結婚式や飲食店、農業プロモーションなどの映像関係の仕事に携わりながら映像制作についてを学んだそうです。もちろん寿司握りの感覚を鈍らせないようにするため、練習も怠ることはなかったといいます。
東京から帰ってきてから約2年が経過し、コロナも少し収まってきたところで海外へ行く準備を進めることにした山﨑さん。「まずは行き先を決めないとな」と思い、用意したのは世界地図。右手で鉛筆を持ち、適当に地図の上に落としたところ、鉛筆の先が指したのは「ドイツ・シュパイアー」でした。そう、山﨑さんはこの方法で行き先を決めてしまったのです。SNSを活用してシュパイアーで寿司職人の求人がないか調べていたところ見つかったのが日本食の店「日の出」でした。すぐに経歴を説明したメッセージを送り、面接の日程を決めました。
そして当日、山の中で行われたオンラインでの面接で、またも驚きの一言。「あなたの顔、とても寿司職人って感じがして気に入りました。合格。」と言われたそうです。「もちろん東京での修行経験もあってこそだとは思いますが、まさか人生で2回も寿司職人顔で採用されるとは思ってもいませんでした」と山﨑さんは笑いながら話しました。
令和5年8月にドイツへと旅立ち、9月1日から働くこととなった山﨑さん。言語の壁に苦戦しながらも、東京で学んだ本場の寿司をドイツ・シュパイアーの地で提供しています。
山﨑さんの握る寿司が、本人も気付かぬ所で評価されており、令和7年6月に「Restaurant Guru 2025」を受賞します。この賞は、料理を食べたお客さんがオンライン上で評価をし、評価の高い料理に贈られるもので、シュパイアー周辺で「今、最も評価の高い寿司」として表彰されました。
最後にこれからの目標について聞くと「今は寿司職人として活動していますが、これは夢の実現に向けた『手段の一つ』でしかありません。私自身、今に至るまで多くの経験をし、これからも様々な経験をすることになります。やはり『人の生き方』は面白い。私一人を見ても、スポーツ少年がドイツで寿司を握っているんです。目標について聞かれましたが、ここでは夢について話します。私の夢は『誰かの背中を押せる人になる』ことです。人の数だけ生き方が存在します。その中で何かに挑戦する生き方を選択しても、最初の一歩が踏み出せない人もいます。私は、そういう人たちの『きっかけ』になりたい。しかし、今の私では影響力が弱いので、今はレベルアップ中です。最初は映像で届けることを考えていましたが、今は何かしらの形で、私の気持ちが誰かに届き、その人の挑戦するきっかけになればそれでいいです。とにかく『届ける・伝える』ということを続けていきたいです」と語りました。
山﨑さんが目指し、行きついた先はどんな景色になるのか。楽しみです。