- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道天塩町
- 広報紙名 : 広報てしお 2025年7月号
●検査はじめました~食塩摂取量について~
私が昨年4月に天塩へ着任してから早1年が過ぎました。前回担当した「病院だより」コラムをご覧になった方から、思いがけずお声掛けいただくなど、驚きや嬉しさと同時に文責の重みを実感しています。
さて、臨床検査室では、先日5月16日付けで尿中電解質(ナトリウム、カリウム、クロール)の院内測定を開始しました。病院だより担当2回目となる今回は、減塩の必要性がうたわれる昨今、その目安となりうる尿ナトリウムを用いた推定一日食塩摂取量についてお話ししたいと思います。
○「塩分」とは何か?
「塩」の主成分は塩化ナトリウムです。ナトリウムの主なはたらきとしては、
(1)細胞を正常に保つ
(2)脳から筋肉や神経などの伝達を担う
(3)食事をおいしく食べるのに必要
などがあります。
○なぜ塩分を取りすぎると高血圧になるのか?
ヒトの体は半分以上が水分、体液でできており、体液は大きく分類すると細胞の内側にある水分:細胞内液と、細胞の外側にある水分:細胞外液の2種類に分けられます。細胞外液は主に血管内の血漿と細胞と細胞の間にある組織液に分けられます。ナトリウムは細胞外に多く存在し、一方細胞内に多く存在するのはカリウムです。細胞内外のイオンバランスが崩れると、濃度の濃い方に水が引っ張られるために様々な症状を引き起こします。
…と、教科書的な説明だととても難しく感じると思います。
たとえば塩気の強いものを食べた場合を思い出してみてください。これは、体内のナトリウムが増える、すなわち細胞外のナトリウム濃度が高くなり、細胞内から水を引っ張ってくるので、細胞内の水分が少なくなり、細胞が干からびて喉の渇きにつながります。また、塩分を多くとると体がむくみやすくなるのは、同じように細胞内から水を引っ張るため、細胞間の組織液が増えてしまい起こるのです。このように考えていただくと、幾分イメージがつきやすいかと思います。
そして細胞外の水分量が増加するということは、血管内の水分、つまり血液量も増加します。心臓はポンプ機能の役割を持ち、血液を全身へ送り出していますが、血液量が増えると、今までより強く圧をかけて送り出す必要が出てきてしまいます。これが血圧上昇のメカニズムの一つであり、この状態が長く続けば、血管や心臓、腎臓など全身へのダメージとなり様々な合併症を引き起こします。このため、特に高血圧患者においては減塩が推奨されています。
※ただし、他の病気が原因で高血圧を引き起こすことがあります(二次性高血圧症)。
○1日の食塩摂取量の目安について
令和4年のデータによると道民の食塩摂取量は12.7g/日であり、日本人の平均である約10g/日を上回っています。道内に限らず、北日本や内陸部でも高い傾向にあるようです。これはかつて寒冷地では冬季に農作物が手に入らないため、また交通の便が悪い内陸では輸送に時間がかかったため、日持ちさせる目的で保存食が発達した背景にあるといわれています。日本人の食塩摂取量の約7割近くは調味料であり、醬油や味噌、塩が多くを占めています。厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)では、18歳以上男性は7.5g未満、同女性は6.5g未満を目標値として掲げていますが、これは日本人の食生活を踏まえ、実現可能な摂取量として設定されたものです。日本高血圧学会では高血圧患者について男女ともに1日6g未満を推奨しています。
では実際はどれくらい塩分を摂取しているのか、食事内容から食塩相当量を計算するのは非常に困難です。そこで、目安として今回新規導入した「尿ナトリウム」と以前より採用している「尿クレアチニン」を用い、推定一日食塩摂取量を計算することで、減塩への意識付けの第一歩になればというのが採用に至った経緯です。また、今年度からは町の特定健診検査項目(74歳未満の方対象)としても採用されております。ご自分が普段どれくらい食塩を摂取しているかを知ることは、健康への意識付けとしてとても重要なことです。
※ただし、人によって目標値は変わりますので、医師の指示に従ってください。
日々の積み重ねが、ご自身の健康につながります。今回の推定一日食塩摂取量の値が、健康への第一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
(文責:臨床検査科 中園)
お問い合せ先:天塩町立国民健康保険病院
【電話】(2)1058