文化 歴史の風 連載156

■収蔵庫の宝物 職員のイチオシ資料紹介
□足利尊氏御教書(あしかがたかうじみぎょうしょ)
仙台藩の重臣である天童家伝来の資料で、御教書とは将軍の意思を伝える文書です。3行にわたる本文の次に日付と花押(かおう)(サイン)があり、最後の行は宛先です。
内容は、室町幕府初代将軍足利尊氏が、速成就院(そくじょうじゅいん)(京都知恩院境内の寺と推定)長老に対し、敵対勢力退治のため大般若経を唱えるよう命じたというものです。日付にある観応(かんのう)元年(1350年)以降、尊氏と弟の直義(ただよし)の対立に端を発した抗争は地方にも及び、美濃国(現在の岐阜県南部)でも内紛が生じたことから、尊氏の子義詮(よしあきら)が平定にあたりました。その戦勝祈願に尊氏は京都を中心とした寺社に祈祷を命じ、うち一通がこの文書です。花押は尊氏自筆の可能性もあり、他は書記官が書いています。その文書がなぜ天童家に保存されていたのでしょう。
天童氏は清和天皇を祖とし、足利氏の流れをくむ名門です。もと出羽国天童城(現天童市)の城主でしたが、最上氏との戦いに敗れ陸奥国に逃れ、伊達政宗に仕えますが、その過程で系図などを失い、家の由緒を再現する必要がありました。文書右端の紙片は「壬戌(みずのえいぬ)」(天和2年=1682年)の年号をもつ極札(きわめふだ)とよばれる鑑定結果を記したもので、尊氏の命令書であることを証明しています。祖先である尊氏文書を入手することで、家としての拠り所の一つとしたのではないかと推測されます。

※8月18日(月)25日(月)まで、収蔵庫の燻蒸作業のため、埋蔵文化財調査センター事務室と展示室を臨時休館します。

問合せ:埋蔵文化財調査センター
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