文化 吉野作造記念館開館30周年

大正デモクラシーの旗手 吉野作造

―今月の表紙―
吉野作造に扮(ふん)するのは、吉野作造記念館事務長の佐々木さん。
記念館のイベントなどで、大正時代からタイムスリップしてきたかのような装いで、吉野作造をPRしています。

「大崎市ゆかりの偉人は誰か」と聞かれた時、誰を思い浮かべますか。
鹿島台地域の品井沼の干拓を成し遂げた「わらじ村長」こと鎌田三之助(かまたさんのすけ)翁、三本木地域出身で「日本女子体育の母」と称される二階堂トクヨなどが挙げられますが、2人と同時代を駆け抜け、日本の政治の発展に寄与した人物がいます。古川地域出身の政治学者・吉野作造です。
1月29日の作造の誕生日に、「吉野作造記念館」が平成7年の開館から開館30年の節目を迎えました。作造の人物像や目指した社会などについて紹介します。

―吉野作造の原点―
吉野作造は、明治11年に古川十日町(旧志田郡大柿村)で、糸や綿を取り扱う商家「吉野屋」の長男として生まれました。古川尋常小学校(現在の大崎市立古川第一小学校)を卒業後、宮城県尋常中学校(現在の宮城県仙台第一高等学校)に入学し、その後は、旧制第二高等学校(現在の東北大学)に進学しました。当時はキリスト教が盛んで、作造も聖書研究会に参加し、後に教会で洗礼を受け、入信しました。ここで得た「自由と平等」を大切にするキリスト教の教えは、作造の思想の基礎となり、その後の活動の支えとなります。
明治33年、作造は東京帝国大学法科大学(現在の東京大学法学部)に入学しました。大学では政治学を中心に学び、政治学者の道を歩み始めます。大学卒業後は中国へ渡り、清王朝の有力者であった袁世凱(えんせいがい)の息子の家庭教師を務めたほか、ヨーロッパにも留学しました。この経験から、大きく変化しつつある世界を肌で感じた作造は、社会を動かすためには民衆の力が重要であることを学びました。

―民本主義全ての人に選挙権を―
当時の日本は、選挙権が男性のみ、かつ一定の税金を納めた人に限られていた制限選挙で、多くの国民は政治に参加できない状況でした。作造は帰国後、政治のあり方について自身の考えをまとめた論説を、多くの雑誌に掲載しました。大正5年に『中央公論』で発表した論文「憲政の本義を説いて其(その)有終の美を済(な)すの途(みち)を論ず」で、「民本(みんぽん)主義」という言葉を使い、民衆が政治に参加し、政治の中心となる道を開こうとしました。作造の考えは人々に支持され、「大正デモクラシー」と呼ばれる時代の基盤となり、大正14年の普通選挙法制定につながっていきました。

―路(みち)行かざれば到(いた)らず、事為(ことな)さざれば成らず―
「路は行かなければ目的地に行き着くことはできないし、物事は行わなければ成就することはできない」という意味で、アメリカに留学する長女・信(のぶ)に贈った言葉です。作造自身も理論や言葉だけではなく、行動する人でした。国や立場の違いを越えて、一人一人が対等な人間として互いを尊重し、支え合う社会を目指し、東アジアの親善友好や経済的に苦しい境遇にある人々の支援など、政治学者の枠を超えて幅広く活動しました。
作造が目指した社会は、日本国憲法によってようやく花開き始めましたが、戦後から半世紀以上たった現在においても、私たちが目指す社会と変わらないのではないでしょうか。
作造の生涯や功績から、私たちがより良い社会づくりに向けてなすべきことは何か、考えてみませんか。

■未来の民主主義社会の担い手へつなぐ
2月2日、地域交流センター(あすも)で、吉野作造記念館開館30周年記念事業の一環として、高校生政策提言発表会が開催されました。
市内外の高等学校4校8グループが、「私たち高校生からの人づくり・地域づくり・未来づくり」を共通のテーマに、同館の「高校生デモクラシー塾」で学んだ内容や各校の学習などを通し、生きやすく住みやすい社会にするための政策を提言しました。同性パートナーシップ制度や、規格外の野菜を使った商品開発、視覚障害者の立場から考える選挙など、社会の課題と向き合い、多角的な視点から考え抜かれた政策に、多くの来場者が耳を傾けました。
未来を担う高校生が政治や地域づくりについて「自分事」として考え、行動し、発表する機会を設けることで、作造が描いた民主主義社会が次世代に受け継がれています。

■吉野作造こぼれ話
▽こぼれ話(1)
大の甘党
好物は汁粉とアイスクリーム。ヨーロッパ留学中は、自分で汁粉を作り、下宿先のドイツ人にも振る舞いました。

▽こぼれ話(2)
妻・たまのとは当時珍しい恋愛結婚
夏休みの旅行で知り合った仙台女子師範学校の阿部たまのと第二高等学校在学中に結婚しました。

▽こぼれ話(3)
趣味は芝居見物
宮城県尋常中学校時代は放課後に芝居小屋に通い、幕あいに宿題をしながら観劇したそうです。

■吉野作造記念館へ行こう!
開館以来、吉野作造の著書や写真、書簡などの資料約8千点を収蔵し、生い立ちや人となり、政治学者としての功績を資料や映像を通して分かりやすく伝えている国内唯一の施設です。
この機会に足を運び、吉野作造や当時の社会について理解を深めましょう。

▼吉野作造記念館の催し
▽企画展ギャラリートーク
日時:3月8日(土) 14時~
内容:企画展「我が町おおさきの歴史・文化学校篇II」の解説会
講師:大平聡(おおひらさとし)氏(宮城学院女子大学特任教授)

▽歴史講座「“東北”とはなにか」
日時:3月22日(土) 14時~
講師:後藤彰信(ごとうあきのぶ)氏(柴田町文化財保護委員)

▽共通事項
料金:一般500円(企画展含む)

問合せ:吉野作造記念館
【電話】23-7100
住所:古川福沼1-2-3
開館時間:9時~17時
休館日:月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)