くらし 町長コラム ベア・パル

■ロックスター
ロックスター、ジミヘンドリクスがウッドストック・フェスティバルで米国国歌「星条旗」を哀しみとも叫びとも取れるようなトーンで演奏したのは1969年の夏の事。ヒッピー文化、サイケデリック、大学発のカウンターカルチャーが若者の間に流行し、ピークを迎えた頃でした。
私は30年以上前にアメリカの高校に留学したのですが、同地でお世話になったホストファミリーはアウトドアを愛する元ヒッピー家族。特にホストマザーとの会話は楽しくて、ビートルズやボブディラン等の歌詞の意味やメタファー(暗喩)、時代背景、当時の若者が何を考えていたのか、その思潮みたいなものを夜通し話してくれました。今でも印象に残っているのは1963年のJFK(ジョン・F・ケネディ)暗殺が若者にどのように影響したかの話で「(あの一発の銃弾で)この国は信用できない国になった」というのです。
1960年代以後のアメリカ史は衰退の一途を辿ります。若者は隠者のようになってしまいました。振り返れば、ジミの演奏は、凋落(ちょうらく)するアメリカの象徴でもあったと思うのです。
改造銃で命を奪われた安倍元総理の事件はいまだ解明されずにいます。元総理が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、そのままアメリカの安全保障戦略の基礎的な考え方になり、各国首脳と尋常ならざる信頼関係を築きあげ、従来では考えられないような離れ業を成し遂げました。大きな外交的損失はいまだ回復せず、今年は政界再編待ったなしでしょう。アメリカがJFKの暗殺によって苦労の歴史をたどったように、我が国も似たような道を歩むのではないかと危惧しています。つまり公に対する信頼が揺らぐに伴い、世情が不安定化し、経済格差や薬物汚染、拝金主義、治安の悪化といった混乱が無秩序を生み出す世の中を。
ウッドストック・フェスティバルで「星条旗」をプレイしたジミは、かぶせるような形で自身の代表曲である「パープルヘイズ(紫のけむり)」を演奏しますが、何やらアメリカの若者が背負った「靄」が表現されているようで、暗澹(あんたん)たる気持ちになったことを覚えています。
今年は大型の選挙も目白押しです。私たちの選択が国や地域の方向性を決定づけます。2025年を輝ける年にしたいと思うのであれば、主権者である私たち一人ひとりが信念と主座を保ち、輝かなければならないと思うのです。今年もよろしくお願いします。

利府町長 熊谷 大(ゆたか)