- 発行日 :
- 自治体名 : 山形県金山町
- 広報紙名 : 広報かねやま No.753 2025年9月号
精神科医師 手塚 裕之
■年を重ねるほど幸せになれる理由
みなさん、こんにちは。月一回、第四月曜日の午後から精神科の外来診療を行っている手塚です。今回は「年を取るほど幸せを感じやすくなる?」という、ちょっと意外なテーマをお話しします。「年を取るって、しんどいことばかり…」そう感じる方も多いでしょう。体力や収入の低下、人との別れなど、年齢とともに失うものは多いものです。ですが、実は世界中の幸福度調査を見ると、五十代を過ぎるころから「自分は幸せだ」と感じる人の割合が不思議と増えていく傾向があります。とはいえ、「もともと幸せな人が長生きしているだけ?」「健康でお金に困っていない人だけの話では?」という疑問も当然出てきますよね。今年発表されたニュージーランドの大規模な追跡研究(約六万九千人を最大十二年間調査)では、こうした疑問もふまえ、年齢と幸福感の関係が分析されました。特に注目されたのが「相対的剥奪感(そうたいてきはくだつかん)」という心の働きです。これは、他人や他の集団と比べて「自分だけが損をしている」と感じる不満のこと。たとえば、「あの人のほうが給料が多い」「隣の家は旅行三昧なのに、うちは…」といった感覚です。この調査によると、年齢を重ねるほど「他人との比較」から自然と離れ、「過去の自分」との比較に意識が向きやすくなる傾向がありました。さらに、社会的な地位への執着が薄れ、「これで十分」「これが自分の人生」と状況を受け入れられる心のゆとりが、満足感を高めていると考えられています。つまり、「人と比べない」ことこそが、幸福感を高める最大の秘訣です。SNSで他人の華やかな生活が目に入りやすい時代だからこそ、「自分なりの幸せ」に目を向けることが大切なのです。たとえば、今日からできる小さな習慣として、「今日うれしかったことを一つ書き留める」「SNSを見る前に『今の気分は何点?』と確認してみる」といったことを試してみてください。幸福度は少しずつ変わっていくはずです。年齢を重ねることは、「比べなくていい自分」になっていく旅路なのかもしれませんね。