- 発行日 :
- 自治体名 : 福島県大玉村
- 広報紙名 : 広報おおたま 2025年10月号
花・野菜・植物たち(8)
箱﨑美義著
◇(7)つづき
このなでしこの花は、古くから和歌などにも登場してきている。なでしこやちいさき花のけだかさよ、と俳人、白之氏は詠んでいる。気高く美しく、さながら、わが子を愛するように、いとおしく思えるから撫子なのだそうだ。
1600年代、江戸時代前期の著名な俳人、松尾芭蕉氏は、酔て寢むなでしこ咲る石の上、と吟じている。河原撫子の咲く水辺の凉え、が主な歌である。無論、花姿にひかれてのことだろう。石竹、常夏と近縁の多い花だが、きわめつきがオランダ石竹、ご存知のカーネーションである。母の日の花にしたのは、どこのどんな博識の人か、700年代、奈良時代、政治家、歌人でもあった大伴家持氏が少女の笑みに、なぞらえたこととの暗合が面白い。家持氏は、清らかな花だと見た。しかし芭蕉氏は、美の背後の屈折も考える。なでしこは、なぜ折れたぞよ、折れたぞよ、と詠んでいる。節で折れて曲がる。盛んに枝分かれする。そんな強さに挫折と立ち直りを見たのだろう。そこを更につきつめた句がある。撫子や死なで空(むな)しき人のむれ、と永田耕衣氏は詠んでいる。日本の野、原などに生え育つナデシコは、フジナデシコ、タカネナデシコやミヤマナデシコなどがある。これらナデシコは、豊かな人間性にもとづき現実に即した感動を率直に表す調子の高い万葉集に二十六首も詠まれている。ナデシコは、古くから秋の七草の代表として今に観賞されてきている。このナデシコの種子は、漢方薬として瞿麦子(なでしこ)といって煎じて利尿、水腫、痳疾、通経剤として利用されてきた。花ことば「嫌い」という。
■おみなえし
をみなえし咲きたる野辺を行きめぐり君を思い出たもとばり来ぬ 大伴池主
秋づきて草陰荒くなりけり咲きゐるものは女郎花の花 梶山篤二郎
露けしやなほひょろひょろと女郎花 芭蕉
をみなめし遥かに咲き黄をつくす 松崎鉄之介
古希すぎて着飾る日あり女郎花 津田清子
◇おみなえしの生いたち
おみなえしは、オミナエシ科に属し700年以前代、奈良時代以前代に東アジアの朝鮮、中国などの山野に生え育った野生種が発見された。同様に日本各地の山野に生え育つ野生種が発見された。
◇おみなえしの本名、別な呼び名のゆらい
おみなえしの本名は、おみなえし、女郎花である。別な呼び名は、娘子部四(おみなえし)、佳人部爲(おみなえし)、敗醤(はいしょう)、馬草(うまくさ)、血眼草(ちめくさ)、美人部師、おめなめし、あわばななどがある。
