くらし 潮来市の誇れる自然 第90回

■水郷の魚たち―タナゴ類
夏休みが近づいた水郷・潮来は、多くの釣り人で賑わっています。水郷で釣れる魚といえば、コイやフナ、スズキ、ブラックバスなどが一般的ですが、今回ご紹介するのは少しマイナーなタナゴ類です。タナゴ類は手のひらサイズで、鮮やかな色彩と可憐な姿から釣りの対象として密かに人気があります。タナゴ釣りの起源は江戸時代にまでさかのぼります。一説には「世界最小の釣り」とも言われ、1cmにも満たない小さな針とウキ、そしてシモリ玉を組み合わせた精巧な仕掛けが使われます。船溜まりや田んぼの水路で小さなウキをじっと見つめている釣り人がいたら、それはタナゴ釣り師かもしれません。
タナゴ類はコイ目コイ科タナゴ亜科に属する淡水魚の総称です。かつて潮来周辺を含む水郷地帯ではアカヒレタビラ(写真1)、タナゴ(マタナゴ)、ゼニタナゴ、ヤリタナゴなどの在来タナゴ類が多く生息していました。タナゴ類はイシガイ科の淡水二枚貝(写真2)の鰓内に産卵し、子どもがある程度成長したら泳ぎ出ますが、かつてはその二枚貝も多くみられました。
ところが近年、二枚貝の急減をはじめとする環境変化によって在来タナゴ類がほとんどみられなくなってしまいました。在来タナゴ類の個体群の存続には、(1)タナゴ類そのものが住める環境と(2)二枚貝の生息環境のほか、(3)二枚貝の幼生がハゼ類やドジョウなどの鰭に寄生して成長することからそれらの魚種の生息環境も必要とされます。在来タナゴ類は生物多様性に富む水郷の水辺環境のシンボルとも言えるでしょう。在来タナゴ類の生息地の保全や再生、そして伝統的な釣り文化の継承にも取り組んでいくことが望まれます。

茨城大学大学院理工学研究科博士前期課程
加藤皐太