- 発行日 :
- 自治体名 : 栃木県野木町
- 広報紙名 : 広報のぎ 2025年9月号
■乳茸(ちたけ)と時流
南赤塚地区 広報連絡委員 齊藤 一夫
半世紀以上前のことであるが、下草刈りがされ雑木が整理されたブナ林には、夏から初秋にかけて「しもつかれ」と同様に栃木県民の郷土食である「乳茸:ちたけ」がザルから溢れるほど採れ、そばやうどんの汁として食すると極めて美味である。周りを見渡せば山ユリがそこらかしこに咲いており、ありふれた光景であった。
県北に行くと、土産品として塩漬けされた「乳茸」が瓶詰として売られているが、味も香り薄く当時を知る者としては雲泥の差があり、全くの別物の様に思える。時として希少がゆえに「松茸」より高値で取引される事もあると聞いた。
毒虫や漆(うるし)にかぶれる事も度々あったが、人にとって都合の良いことばかりが自然ではない。伐採された木や雑木は炊事や風呂の燃料として、落葉は農作物の肥料として活かされ、必要不可欠なものとして平地林は日常生活の中に生きていた。
今や雑木が生い茂り、時の流れとはいえ、突如としてソーラーパネルを設置する現場を横目で見ながら通り過ぎる。現状での平地林の地権者には何らの恩恵ももたらさず、固定資産税を納めるのみの重荷となり、保全管理には多くの労力と費用負担を考えると、止む無しと思う。
幼少期の風景を知る私にとっての里山の今は寂しい限りであり、淘汰され消えゆく前に今一度、自生した「乳茸」を見てみたいものである。願わくは後世まで里山として残って欲しいが、そう思うことは身勝手なのかもしれない。