文化 芸術祭が始まる

◆(3)ものづくりの感性を受け継ぐ 藝大生・百武弓月(ひゃくたけゆずき)さんの《糸笛》
東京藝術大学美術学部絵画科准教授 アーツ前橋チーフキュレーター 宮本 武典(みやもと たけのり)

2000年代以降、全国各地で現代美術の芸術祭が開催されるようになりました。
それまで美術/アートは〔都市生活者のもの〕、あるいは〔美術館で観るもの〕というイメージが強かったのですが、北陸の雪深い里山や瀬戸内の小さな島々でも、地域固有の文化をアートを通して楽しむ国際芸術祭が開かれ、着地型観光や空き家活用・移住促進でも大きな成果をあげています。
私たち東京藝術大学と桐生との縁は90年代まで遡り、元のこぎり屋根工場をアトリエや展示会場に使わせていただくなど、小規模ながら交流を継続してきたところ、昨年、荒木市長が「桐生でも地域密着型の芸術祭ができませんか。」と声をかけてくださいました。
糸へんの街・桐生はたくさんの素晴らしい芸術家やデザイナーを輩出していますし、有鄰館を拠点に市民の芸術文化活動も盛んです。繊維産業を通してものづくりに熟練した桐生で新しい芸術祭を打ち出すなら、この地に蓄積された創造の知恵や記憶を、次の世代に渡していくプログラムを軸にしたいと考えました。
芸術祭の開催は令和8年11月の予定です。今年は準備年なので、東京藝術大学の学生たちがまちなかで事前取材を行っています。彼らは未来のアーティストです。これから日本の美術界を担う才能たちが、今の桐生をどう捉え、表現するのか。私も一人の桐生市民として楽しみにしています。
今月は3年生の百武さん(東京出身)が養蚕農家のお手伝いをさせていただいてます。実は彼女はこれまでも蚕を描いてきました。少し怖いその絵は古来より続くこの虫とヒトとの関係に、〔飼育=画一化=教育〕という若者らしい社会批評を重ねているようです。そんな彼女が実際に蚕に触れ、どう変化したのか。次号連載でご報告したいと思います。