その他 歴史散歩 第369回

春のやぶさめの謎
~なぜ春にやぶさめを行うのか~

例年、3月の第2日曜日には、出雲伊波比(いずもいわい)神社で春のやぶさめが行われます。毎秋11月3日に行われる秋のやぶさめのように乗り子が馬を走らせるのではなく、7歳未満の男の子がやぶさめの盛装をして馬にまたがり、大人に介添えされながら、止まったまま的に矢を一回だけ射るものです。これは秋のやぶさめの「願的(がんまとう)」だけを行っていると考えられます。
春のやぶさめにはいくつもの謎があります。なぜ秋のやぶさめと異なるやぶさめが行われているのか、考えてみましょう。

八幡(はちまん)神社のやぶさめ
出雲伊波比神社にはかつて八幡神社がありました。現在も旧八幡神社の社殿は、出雲伊波比神社に向かって右側に建っています。江戸時代、八幡神社では8月15日にやぶさめが行われていました。どのようなやぶさめだったのか詳細はわかりませんが「朝日が昇るころに行われていた」という記録があります。朝に行うやぶさめと言えば秋のやぶさめの「朝的(あさまとう)」が思い起こされます。「朝的」は八幡神社で早朝に行っていたやぶさめの名残かもしれません。また、8月15日に行われていた八幡神社のやぶさめは明治12年(1879)の記録を最後に、以後は代わって、昭和2年(1927)より同社の春祭りである3月15日にやぶさめが行われたという記録が登場します。このことから2つのやぶさめの内、八幡神社のやぶさめは春祭りとして行われるようになったのではないかと推測されています。

乗り子の年齢
現在、春のやぶさめの乗り子の年齢は7歳未満となっていますが、八幡神社のやぶさめを踏襲(とうしゅう)したものだとすると、明治12年までの八幡神社のやぶさめの乗り子は何歳ぐらいだったのでしょうか。天明(てんめい)8年(1788)に現在の平山の乗り子となった「斉藤龍治郎」の年齢が10歳だったことがわかっています。もし、10歳前後の幼い子どもを乗り子とする慣習があったとすれば、現在の春のやぶさめと同様、馬を走らせずに的を射る行事だった可能性もあります。
ほかにも不明な点の多い春のやぶさめですが、地元には秋のやぶさめより起源が古いという言い伝えもあり、興味は尽きません。ぜひ春のやぶさめを訪れ、古式豊かな毛呂山の伝統行事をご覧ください。