文化 学芸員が選ぶ 今月のイッピン

■吉田博(よしだひろし)
「劔山(つるぎさん)の朝 日本アルプス十二題」/1926年(大正15年)木版多色摺 千葉市美術館蔵
まだ暗さも残る夏の早朝、昇る朝日に山の頂が照らされて輝く、その一瞬の光景を捉えています。
作者の吉田博(1876-1950)は、日本や欧米の風景を色彩豊かに表現した木版画で知られる、新版画の代表的作家です。
高山を愛した吉田は、還暦ごろまでのほぼ毎夏を日本アルプスで過ごしていました。遠方から眺める山の姿は勿論のこと、登山家ならではの経験や実感が込められた秀作を多く手掛けています。
本作においても、山で夜を明かした者だけが目にすることの出来る光と色彩が風景の中に溢れ、空気の冷たさまで伝わって来るような、臨場感ある仕上がりとなっています。
山肌の美しいグラデーションは、淡い色をぼかしながら重ねることで表現しており、木版画としての技術の高さにも驚嘆させられます。
2016年に開催した「生誕140年 吉田博展」でメインビジュアルとして使用した、千葉市美術館にとっても特別な1枚です。

◇松岡学芸員
「日本美術とあゆむ―若冲(じゃくちゅう)、蕭白(しょうはく)から新版画まで」(7月21日まで)にて展示中です。

問い合わせ:市美術館
【電話】221-2311【FAX】221-2316