くらし 違いを超えて、手を取り合う共生社会を。(1)

―自分自身と仲間のために。病気を治し、社会を変えたい。―

■しぶや区ニュース×渋谷のラジオ 渋谷のラジオで出張インタビュー
国の指定難病「ウルリッヒ病」の患者会「ウルリッヒの会」の代表を務める東京大学教養学部の渡部耕平さんに、患者会の活動や大学での学び、今後の展望について伺いました。

東京大学教養学部2年生、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー患者会「ウルリッヒの会」代表 渡部耕平(わたなべこうへい)さん
「夢は自分の病気を自分の研究で治すことです。治療法の開発や病気の根治に寄与できるよう研究を進めていきたいです。」

[ウルリッヒ病とは]
国の指定難病「先天性筋ジストロフィー※1」の一種で、生まれつき筋力が弱い、肘や膝の関節が固くなり十分に動かせない、手首や指の関節が過度に柔らかいなどの特徴を持つ病気。現時点では根本的な治療法が確立されていないため、患者一人一人の症状に合わせた保存療法を継続していく必要があります。

※1 生まれつき筋力が低下し、運動機能に障がいが生じる遺伝性疾患の総称。

◆患者自身のための患者会を。高校1年生で代表に就任
◇自己紹介をお願いします。
渡部:現在19歳で、東京大学教養学部に通っています。「ウルリッヒ病(ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー)」と呼ばれる難病を抱えていて、高校1年生の時に「ウルリッヒの会」という患者会の代表に就任してから、さまざまな活動を行なっています。

◇ウルリッヒ病とはどのような病気なのでしょうか?
渡部:小児期に発症する先天性筋ジストロフィーとしては国内で2番目に多い、VI型コラーゲン遺伝子※2の異常により筋肉が衰える進行性の難病です。報告されている国内の患者数は約300人ですが、実際はさらに多い可能性があり、医療関係者の間でも十分に認知されていません。また、症状の個人差が非常に大きいのも特徴です。

※2 筋肉の強度や弾力を保つコラーゲンを作る遺伝子。

◇渡部さんご自身がウルリッヒ病の診断を受けた年齢と現在の症状について教えてください。
渡部:私が病気の診断を受けたのは他の患者と比べるととても遅く、10歳の頃でした。幼い頃から転びやすく、けがが絶えなかったため、心配した両親がいくつもの病院を巡った結果、ようやく正式な病名が分かりました。現在は支えがないと歩行ができず、矯正装具付きの車いすで生活し、就寝時のみ人工呼吸器を付けています。ストレッチや呼吸・咳の練習といったリハビリを定期的に行うことで症状の進行を予防し、なんとか手術をせずに生活できているという状態です。大学には介助者が付き添い、移動やトイレのサポートをしてくれるので、安心して通うことができています。

◇「ウルリッヒの会」の活動について教えてください。
渡部:北海道から沖縄まで全国各地の患者が集まり、家族会員やボランティア会員を含めて70人ほどが活動しています。主な活動としては3つあります。一つ目は交流会で、同じような病状の人と話すことで孤独感が和らいだり、情報共有ができたりするため、ウェブ会議やチャットを使って気軽に交流しています。二つ目は医療関係者を招いた勉強会で、病気の理解を深めたり、研究の進捗状況について報告を受けたりしています。三つ目は広報活動で、患者数の割に病気の認知度がとても低いため、ウルリッヒ病を皆さんに知ってもらえるように、患者自身が積極的に講演や取材対応を行なっています。

◇「ウルリッヒの会」の代表を務めることになった経緯を教えてください。
渡部:ウルリッヒ病と診断された後、母がすぐに患者会に登録してくれました。当時は患者の家族が代表や役職を務めていて、私自身は積極的に関わっていませんでしたが、中学を卒業する頃、患者自身のためにある患者会で、患者本人ではなくその家族が主体的に活動することに違和感を覚えるようになりました。このことを母に相談すると、次期代表に立候補することを勧められ、総会で承認を経て、代表に就任しました。高校生ということで不安は多少ありましたが、「若いからこそ失敗を恐れず挑戦したい」という気持ちが大きく、もともと物おじしない性格のため、迷わず行動しました。

◇代表になったことで周囲の反応や自分の気持ちに変化はありましたか?
渡部:患者自身が直接働きかけることで、製薬会社や医療機関がより積極的に動いてくれるようになったと感じています。他の難病の患者会との交流を通じて学ぶことも多く、特に海外の患者会は驚くほど精力的に活動していて、当事者の生の声を伝えることが社会を動かす力になると実感しました。また、私自身の病気に対する考え方や人生観も大きく変わりました。病気に対してより深く向き合うようになり、「自分が病気を一番知っていなければいけない」という責任感が芽生え、病気と共にどのように生きていくかを真剣に考えるようになりました。