くらし 違いを超えて、手を取り合う共生社会を。(2)

◆自分の病気を最先端の環境で研究するために東京大学へ
◇東京大学に入学した理由を教えてください。
渡部:自分の病気を自分自身で研究したいと思ったからです。すでにウルリッヒ病の研究者はたくさんいらっしゃいますが、現在のところ根本的な治療法は見つかっていませんし、治療法が見つかるまでにあとどれくらい時間がかかるかも分かりません。それなら自分で研究するのが一番だと考え、医学部を目指していたところ、私の活動を応援してくれていた進路指導の先生が東京大学の推薦入試を提案してくださり、受験することにしました。

◇大学で学びたいことやキャンパスライフについて教えてください。
渡部:この秋から医学部健康総合科学科へ進学する予定です。ウルリッヒ病の研究や治療法の開発にはiPS細胞※3を用いたアプローチが主流なのですが、私はもう一つ注目されているアプローチであるゲノム(遺伝子)編集についても学びたいと考えています。いずれにしても、最先端の環境で研究を進めて、少しでも早く治療法を開発し、病気の根治に寄与したいです。キャンパスライフはとても充実していて、すてきな友人に恵まれています。また、普段の講義やゼミナール(以下「ゼミ」)は興味深いものばかりで、特に「障害者のリアルに迫る」というゼミは、障がいとは何かを考える良い機会になりました。大学生活を通じて多様な考えに触れ、患者会の活動にも生かしていきたいです。

※3 体のさまざまな細胞に変化できるよう人工的に作られた万能細胞である「人工多能性幹細胞」のこと。

◆障がいがあることはネガティブなことばかりではない
◇今後の夢や挑戦したいことを教えてください。
渡部:夢は、自分の病気を自分の研究によって治し、日常生活の一つ一つの行動を当たり前にこなせるようになることです。歩く・食べる・話すといった日常の動作が、私にとっては特別なことのように感じられるため、それらを当たり前にこなすことができる喜びをぜひ、味わってみたいです。また将来的には、とても複雑で大変だと感じている障がい者に関する申請手続きを変えていく活動にも挑戦したいです。これまで本当にたくさんの人の優しさに支えられてきたので、恩返しができるように頑張ります。

◇障がいや病気の有無に関わらず、全ての人が助け合い、生き生きと暮らす共生社会を実現するためには何が必要だと思いますか?
渡部:健常者と障がい者が互いに手を取り合って初めて、平等や共生社会が実現すると考えています。街のバリアフリー化は進んできましたが、健常者から障がい者への一方的なアプローチだけでは、両者の壁はなかなかなくならず、社会も変わっていきません。これからは障がい者からも健常者へ積極的に働きかける必要があると思いますし、私自身もどう働きかけるのが良いのかを模索しながら日々活動しています。

◇大学入学を機に渋谷区にお住まいとのことですが、区の印象や区内でのお気に入りの過ごし方を教えてください。
渡部:渋谷区は、いろいろな顔を見せてくれる街という印象です。グルメスポットもたくさんあって、食べ歩きが楽しいですね。車いすの運転には自信があるので、休日は外に出かけたり、家ではゲームや読書をしたりしています。

◇区民の皆さんにメッセージをお願いします。
渡部:「ウルリッヒの会」では、患者本人や家族はもちろん、活動を支えるボランティア会員も募集しています。どなたでも参加できますので、お気軽にご応募ください。また、障がいがあることは必ずしもネガティブなことではないということを、区民の皆さんに知っていただきたいです。障がいのある人と接する際に、「大変そう」「かわいそう」と感じるかもしれません。そのように気遣ってくださることはとてもありがたいのですが、障がいがあることでさまざまな角度から物事を考え、他の人とは異なるアプローチを取ることができるという側面もあります。ぜひ、障がいというものをポジティブな面からも捉えていただき、共に手を取り合っていけたらうれしいです。

≪「渋谷のラジオ」で放送中!≫
渡部さんへのインタビューは4月15・22・29日に「渋谷の星」で放送します。

■ウルリッヒの会
ウルリッヒ病患者とその家族および活動を支えるボランティアによって構成される患者・家族会です。希少疾患であるウルリッヒ病への理解を広げるため、平成31年3月に発足しました。

◇主な活動
ウルリッヒ病に関する正しい知識の習得や理解促進のための情報交換および勉強会の開催、患者・家族同士の懇親の場の提供などを行なっています。「悩まず気楽に」「仲間とともに」をモットーに、患者や家族が抱える不安や疑問を共有し、「孤立しない生活環境の実現」を目指しています。