くらし 森林レンジャーがゆく(145)

「待ち伏せのチマちゃん」

秋は、色鮮やかな自然を楽しめる清々しい季節ですね。この時季は、冬眠の準備や越冬地への渡りなどで、様々な生き物が意外と活発になります。そのなかには、人間に害を与える生き物もいますので、今回は寄生虫で有名なマダニの仲間の話をします。
吸血するために哺乳類などに寄生するマダニの仲間では、マダニ属、チマダニ属やキララマダニ属などがいます。あきる野の野外で圧倒的に数多く確認しているのは、チマダニ属であるため、私はこれらのことを「チマちゃん」と呼んでいます。以前は少なかったですが、現在はとても身近な存在になってしまった実に危険な生き物です。
例えば、吸血する前のキララマダニ属の成虫は約1センチになるため目立ちますが、チマダニ属は種類が多く、拡大して特徴をよく見ないと区別がつかない約1ミリから数ミリで、体に付着しても気が付かない人が多いほど非常に小さな生き物です。しかし、マダニの仲間によって複数の病原体を媒介する可能性があります。近年は、全国でそういった被害が増加し、死亡事故も起きています。
マダニの急増を実感したため、2019年から活動中に確認した個体数を記録し始めました。その記録により、今年の9月の段階では、過去2番目に多い年となっています。シカなどの大型哺乳類の増加と分布拡大は特にマダニの拡散の原因となっていますが、他にも、温暖化、野生動物への餌付け、地域猫、犬の放し飼いなど、引き金となっている要因が多い時代です。こうして、病原体による人間への被害が広がり、今年は関東地方で、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の人への感染が初めて確認されました。
自然は素晴らしく、美しい。恵みであり、人間の「源」でもありますが、同時に様々な危険が潜んでおり、楽しい「場」だけではなく、気を付けないと残念な事故にも繋がります。様々な環境の草むらや、枯れ葉などでマダニが見られますので、昔のイメージのように草むらに寝転んだり、半そで、短パンで虫取りなどして遊ぶのはもう現状に沿いません。そして、春や秋はマダニが最も多い時期ですが、夏や冬も確認しているため、季節問わず注意が必要です。その被害に遭わないように、野外では足首などを露出せず、時々、マダニがついていないかチェックを行うことをおすすめします。(パブロ)