くらし [特集]身近な風景を一層で描く(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 神奈川県平塚市
- 広報紙名 : 広報ひらつか 令和7年6月第1金曜日号
6月14日(土)~9月15日(祝)に美術館が開く企画展、「原良介サギ子とフナ子 光のそばで」。
同展に作品を展示する平塚市出身の画家・原良介さんに、同展にかける思いなどを聞きました。
●原良介
平塚市生まれ。多摩美術大学大学院在学中に、トーキョーワンダーウォール展で大賞を受賞するなど早くから注目を集める。油絵画家として、個展などでの活動を続ける。
・感覚を素直に表現する
モチーフにする風景などは写真を撮らず、現場で見た風景を思い返して描くという原さん。自分の感覚をダイレクトに表現できると言います。
キャンバスにいきなり油絵の具で描き始めるのではなく、まずは水溶性パステル(下写真)でスケッチブックにモチーフを描き出します(左下写真)。
※写真は本紙をご覧ください。
・柔らかな光が降り注ぐ
アトリエは、北側の天窓から自然光が入る構造になっています(写真)。原さんが絵を描くのは光が特にきれいに差す午前中だけ。日中でも照明はつけず、自然光の明るさで作業をします。
いよいよ会期が近づいてきた美術館の企画展。展示作品を手掛ける原良介さんは「企画展に向けて、新たに平塚の風景をモチーフにした作品も描きました」と、にこやかに話します。原さんにとって初めての、出身地平塚で開く企画展が始まります。
◆長年過ごした平塚
6〜30歳を金田地区で過ごした原さん。「特に小学生の頃は行動範囲が広く、家の近くに流れていた金目川の他、自転車で平塚海岸などにも行ってよく遊んでいましたね」と幼少期を思い返します。市美術館から企画展の提案があった時は「長い間住んでいたということもあり、とてもうれしかったです。何より、平塚市美術館のような大きな美術館に声を掛けてもらえるとは想定していませんでした」と驚きの表情を見せます。
「海のある方が南側、富士山の見える方が西側、川の上流に向かえば北側と、平塚は何となく自分のいる位置が把握しやすい地形だと思います。おかげで、子どもの頃に市内のいろいろな場所に迷わず遊びに行けましたし、その頃に見た風景などは今の作風に間違いなく影響していますね」と原さんは断言します。「平塚に住んでいた時は当たり前に思っていましたが、市外に引っ越してその良さに気が付きました。そんな思い入れのある平塚で、企画展を開けることを光栄に思います」と笑顔で話します。
◆平塚で見られる風景
企画展に向けて制作した『サギ子』(3面画像(1))は金目川と大山を、『フナ子』(3面画像(2))は土屋地区で実際に見た風景が描かれています。『サギ子』は、原さんが初めて川をモチーフにした作品です。「市内に住んでいた頃、金目川になじみがあったため、以前から川を描きたいと思っていました」とにっこり。「市美術館での展示が決まった時は、迷いなく金目川を描こうと思いました。作品名や作品に描いている鳥は、平塚の市民の鳥『しらさぎ』を表現しています」と軽やかに語ります。
他にも、平塚から見える富士山を描いた作品もあるそう。「平塚から見える富士山って、とてもきれいですよね。そんな富士山を絵の一部に描き込んでいます」。富士山ってこれかな? と企画展で探してみるのも面白いのではないかと話します。
※画像は本紙をご覧ください。
◆油絵の具を一層で
油絵の具を何層にも重ねて厚みを表現する油絵画家が多い中、原さんは油絵の具を重ねず一層で作品を描きます。大学や大学院で現代美術を学ぶ過程で、油絵を一層で描く魅力を知ったと言います。「一層ならではの、明るくて気持ちの良い色が好きなんです」と目を輝かせます。
油絵の具を顕微鏡で見ると、色のもとになる顔料の粉末が見られます。粉末の隙間を通る光がキャンバスに反射して人は色として認識します。全く同じ色でも、重ねて塗ると顔料の隙間が少なくなって、色が暗く見えるようになります。「重ねる量が少ないほど、キャンバスに反射する光が多く、明るい色になるんですよね」と一層描きで作品を描く理由を語ります。子どもの頃に書道を習っていたという原さんは、「2度書きをしないという共通点も、油絵の一層描きがしっくり来る理由かもしれません」と付け加えます。