文化 私たちと文化財301

■鎌倉を挙げた一大仏事
今回は、国指定重要文化財『円覚寺文書』の一つ「北条貞時十三年忌供養記」を紹介します。
元亨(げんこう)3年(1323)10月に円覚寺で行われた第9代執権北条貞時の十三回忌仏事の準備の様子や役割分担、参列者やお布施の詳細などが記された古文書で、その長さは約17メートルに及びます。
命日の法要に合わせて建てられた法堂は現存していませんが、古文書からは、二階建てにも見えることが特徴の「雨打(ゆた)」(裳階(もこし)の別称)が付いた建物だったと読み取ることができ、建武元年(1334)ごろを描いたとされる「円覚寺境内絵図」(国指定重要文化財)に見られる姿と一致します。
また、法堂の落慶法要には、円覚寺のほか、建長寺、寿福寺、浄智寺など計38の寺から2千人以上の僧侶が参加したことや、命日以外にも多種多様な法要を行い、京都から参加した僧侶もいたことなどが記されています。貞時の十三回忌は、鎌倉内外で多くの人々が尽力した、圧巻の一大仏事だったことが想像できます。
当時は仏事の内容を記録しただけかもしれませんが、今まで大切に保存されてきたことで、後世を生きる私たちが中世鎌倉の様相を知ることができます。「北条貞時十三年忌供養記」は、令和4年度に保存修理が終了し、さらに後世へとつなぐ準備が整いました。これから先も、鎌倉の歴史をひもとく手がかりとなるかもしれません。
[文化財課]