くらし 【特集】地域の見守り隊 安心をみんなの手で(1)

昨年、市内で発生した犯罪の件数は1385件。ここ数年で件数が増加する中、地域での暮らしを守るために力を尽くしている人たちがいます。地域に寄り添い、日々の活動をする二人の姿を追いました。

■誰かのためにできることを

荻野地区青パト隊
奥脇 篤仁さん(73・上荻野)

顔を出していた太陽が姿を消した頃、軽トラックの屋根に青色の光が灯ります。真剣な表情でハンドルを握るのは、荻野地区青パト隊の奥脇篤仁さんです。「事件や事故を未然に防ぎたい」と、地域の安心・安全のために車を走らせています。

▽自分にできることを
青パト隊は、青色回転灯を装備した自動車による自主防犯パトロール団体です。市内では2004年に活動が始まり、現在は市内全域で約400人が活動しています。隊長の奥脇さんを中心に22年に立ち上げられた荻野地区は、33台の車両と34人のメンバーを擁する市内最大規模の団体です。「隊を作ろうと思った時、地域に関心を持ち一緒に動いてくれる人がたくさんいてうれしかった」と、笑顔を見せ、同じ思いを持つメンバーたちと汗を流しています。
奥脇さんが、防犯意識を強く持ったのは市防犯協会の委員として携わった時です。市内の事件・事故率の高さを知り、「厚木は平和だと思っていたので驚いた。どうにかしなければと感じた」と振り返ります。60歳を過ぎて仕事が落ち着くと、その思いを持って自治会活動に積極的に参加。地域内で不安に感じる箇所を把握して住民の声を聞くうちに、安心・安全に取り組む必要性をますます感じるようになりました。「みんなが不安のない暮らしを送るには、どうすればいいのか。何ができるのか」。考えを巡らせ、行動に移すようになりました。

▽信頼を築く
パトロールは、各担当者が活動日と巡回コースを自由に決め、昼夜を問わずに実施します。奥脇さんも、主に夕方から夜にかけて、週に2回程度を活動しています。人けのない場所や空き巣が起きた住宅地など、気になる箇所を巡回しながら周囲に気を配っています。
不審者などの情報が入れば、メンバーと共有し、現場に近い人や時間のある人が見回りに行きます。不審な人を見つけて「こんばんは。何かお困りですか」と、優しく声を掛けると、その日を境に姿を現さなくなったこともありました。「私たちは捕まえるのではなく、啓発が目的。『見られている』という意識を付けるのが大事」。正義感を持ちつつも、強い口調にならないように注意を払っています。
地域の方への声掛けはパトロールの時だけでなく、普段からも大切にしています。「互いを知ることは、暮らしの安心安全につながる。住民同士の結び付きの深さが、防犯につながる」。日頃の何げない会話が顔を覚えるきっかけとなり、信頼関係をつくっています。

▽防犯を考えるきっかけに
青パト隊は、パトロールのほか、子どもたちの安全を守るために下校の見守りや交通安全教室、防犯ブザーの点検会などにも取り組んでいます。「子どもたちから『ありがとう』『頑張って』と言葉をもらえた時はうれしい。同時に青パトを認識していると実感でき、活動の意義が感じられる瞬間」と目を細める奥脇さん。活動前と比べ、不審者を見かけなくなったり、空き巣被害が減ったりと、着実に成果を感じています。
「今後も学校や地域、行政など、多くの人を巻き込んで動き続けたい」。そう話す奥脇さんは、今日も黄緑色のベストに袖を通し、まちの安心・安全に熱意を注ぎます。

■地域に根付いて暮らしを守る

南毛利駐在所
秋田 伸一さん(51・長谷)

「こんにちは。元気にしていましたか」「変わったことはありませんか」。優しい笑顔で住民に話しかける秋田伸一さんは、南毛利駐在所に勤務する警察官です。秋田さんは11年間、駐在所に暮らしながら地域の安全を守っています。

▽地域に密着
市内には厚木警察署のほか、8つの交番と7つの駐在所があります。駐在所は、交代制の交番とは異なり、勤務地域で生活しながら一人で対応に当たります。秋田さんは、「より地域や住民と近い距離感で関われるのが良いところ。まちの特色を肌で感じられる」と話します。
千葉県出身の秋田さん。大学卒業後は、民間企業に就職するも、以前から強く抱いていた「損得に関係なく、人のために力になりたい」という思いから30歳で警察官に。市外の交番に10年間勤務した後、希望して南毛利駐在所に配属されました。「警察官を志した時から駐在所で働きたかった」と笑顔を見せます。

▽一人でも多くの笑顔を
秋田さんの一日は、パトロールから始まります。子どもたちの登校時間にはミニパトを走らせ、学校の周辺に危険がないかを確認。時には横断歩道に立ち、通学する児童たちに「おはよう」と元気に声を掛けながら送り出します。
増加する市内の犯罪に対応するために、各家庭を訪問して防犯を呼び掛けることも欠かしません。「犯罪を未然に防ぐには、普段と違う気付きが重要」と、訪問先では言葉を交わしながら不審な点がないかを確認しています。事件だけでなく、「見覚えのないファクスが届いた」「敷地にヘビが出た」などの困り事にも耳を傾け、住民たちの生活に寄り添っています。「市内は空き巣や自転車の盗難、特殊詐欺が多い。見回りを強化しているが、不安なことがあれば迷わずに110番通報してほしい」とも呼び掛けます。

▽長く関わり続けたい
顔を覚えてもらうことが安心につながればと、地元の祭りや学校での特別授業、自治会活動、子ども食堂などに参加。積極的に地域と関わる機会を増やしています。「着任時に歓迎会を開いてくれたり、駐在所の草刈りをしてくれたりと、私も地域に支えられている。だからこそ皆さんの生活を守りたい」。深まるつながりが、秋田さんを動かしています。
「定年までこの地で汗を流し続けたい」。そう意気込む秋田さんは、頼れる身近な警察官として、これからも住民一人一人の暮らしを見つめ続けます。