健康 ≪特集≫あなたの周りに悩んでいる人はいませんか?みんなで支える大切な命(1)

卒業や就職・転勤などで生活環境が変わる春は、ストレスがかかりやすい時季です。自殺を防ぐために私たちができることを一緒に考えましょう。

◆専門家に聞きました
新潟大学 教育学部 准教授
医学博士・臨床心理士・公認心理師
田中 恒彦さん

▽コロナ禍(か)を機に自殺者数は増加傾向に
新潟市の自殺者数は、平成21年から令和2年まで減少していましたが、令和3年から増加に転じています。自殺はさまざまな要因が複雑に影響し合って起こる現象ですが、特に増加の要因としては、新型コロナウイルス感染症の流行による経済状況の悪化や、人との関わりが減ったことが考えられます。また、人との関わりの希薄化に拍車をかけたのは、SNSだと思います。コロナ禍で人と会う機会が減ったことに加え、SNSでのコミュニケーションが中心になり、対面でのやり取りが少なくなったことで、孤立する人が増えてしまいました。
自殺が家族や周りの人、社会に与えるインパクトは計り知れません。自殺で亡くなる方を減らせるように、一人一人が自分にできることを真剣に考えていく必要があります。

▽コミュニケーションが重要
自殺予防には、コミュニケーションが重要です。家族だけでなく、近隣住民や趣味仲間との関わりなど、コミュニティーのつながりも大切にしましょう。
例えば近頃は、家の周りでこどもがわいわい遊んでいることを許せない人や、干渉されることを嫌って近所付き合いを避ける人が増えています。人付き合いは時に面倒で、自分や家族のプライバシー保護も大切ですが、簡単なやりとりも含めた普段の関わりまで避ける人が増えてしまうと、孤立した社会環境になりやすく、自殺のリスクを高めることにつながってしまいます。
多様な人がいること、それぞれの事情や価値観があることを受け入れ、違いを理解し合えれば、自殺リスクの低い社会の実現につながると思います。

▽私たちができること
自殺は、個人の感じ方・考え方の問題によって起こると思われがちですが、必ずしもそういうわけではありません。社会から孤立していく中で「死んでしまいたい」という気持ちが生まれてくるように、自殺の動機はその人とその人を取り巻く環境の間に生まれてくるものなのです。周りの人を自殺に追い込まない環境をつくるためには、私たち一人一人が「寛容な心」を持つことが重要です。
寛容な心を持つには、さまざまなことに「しょうがないか」と思うようにしましょう。例えば、周りにつらそうな顔をしている人がいたとして、「なんでそんな顔してるんだ」と問い詰めるのではなく、「つらい顔になる理由があるのだろうな」と理解し、優しい言葉を掛けてみてください。声を掛けても思ったような反応が返ってこないかもしれませんが、「今は言いたくなかったのかもしれないな。しょうがないか」と受け入れ、心配する気持ちを無理に押し付けないことも大切です。
自殺予防と聞くと「何ができるだろう」と難しく考えてしまうかもしれませんが、周りの人とコミュニケーションを取ることは、今日からでもできることだと思います。自分にできる小さなことから始めてみませんか。

◆考えてみよう 悩んでいる人にできること
あなたの周りにいつもと違う様子の人はいませんか。
ちょっとした変化への「気付き」「声掛け」「対応の仕方」などで、悩みや不安を和らげることができます。

1.気づく
家族や仲間の変化に気付いて、声を掛けましょう。違っていてもいいので、体調などについて尋ねてみてください。

Point!
◎心配していることを伝える
「どうしたの?なんだか元気ないけど、大丈夫?」「よかったら、話してみない?」

×聞かない態度をとったり、安易な励ましをしたりしない
「元気出して。気の持ちようでどんなことでも変わるんだから」

2.聴く
本人の気持ちを尊重し、受け止めることが大切です。ゆっくり話を聴くだけでも相手の心が軽くなることがあります。

Point!
◎相手の話をじっくり聴き、その気持ちを肯定する
「それは大変だったね。一緒に考えよう」
「話してくれてありがとう」

×他人との比較をしたり、相手の考えを否定したりしない
「みんなも耐えているんだ。踏ん張りどころだよ」

3.つなぐ
早めに専門家に相談するよう促してみましょう。相談や受診をすることは決して恥ずかしいことではないと伝えましょう。

Point!
◎相手の気持ちを踏まえて、相談窓口を紹介する
「専門の相談窓口があるよ。一つずつ解決していこう」
「相談してみない?一緒に相談に行くよ」

×一方的な指示をしない
「まずは生活を規則的にしなきゃ。全てはそれからだよ」

4.見守る
温かく寄り添いながら、じっくりと見守りましょう。悩みを抱えている人にとって、自分のことを気にかけてくれる人の存在は、大きな支えとなります。

Point!
◎必要があれば相談に乗り、これまでと変わらず見守る
「最近は調子どう?」「いつでも話を聴くよ」

×悩みの解決を焦らない
「早く良くならないとね」