- 発行日 :
- 自治体名 : 福井県勝山市
- 広報紙名 : 広報かつやま 令和7年12月号No.853
■「手洗いで命を救った人」ゼンメルワイス
JCHO福井勝山総合病院
麻酔科診療部長 小原洋昭
コロナ禍以降、外出時の手洗いは世に定着したようで、病院をはじめ多くの店舗の入り口では手指消毒用のアルコールが置かれているのを目にします。
そもそも手洗いが感染症の予防に役立つことを発見したのは、19世紀にウィーンで活躍した産科医イグナーツ・ゼンメルワイスです。当時欧州では産褥熱(さんじょくねつ)(分娩後の高熱)による産婦の死亡が問題になっていましたが、原因がわからず打つ手の無い状況でした。頭を悩ませていた彼ですが、ひょんなことからある事実に気づきます。それは医師がお産を担当している第1病棟では死亡率が高いのに、助産師が担当している第2病棟では低いということでした。普通に考えれば逆の結果になりそうですが、それを疑問に思いさらに観察を続けると、なんとその違いはお産介助前の「手洗いの有無」にあったのです。
当時細菌やウイルスが病気の原因になることはまだ知られていませんでしたが(ロベルト・コッホが炭疽菌を発見するのはその30年後です)、何らかの「悪さをする物質」が手洗いにより除去されているのではないかと彼は考えました。その後第1病棟でも手洗いを励行することにより死亡率は下がったのですが、医学会に彼の主張は受け入れられず、悲嘆のうちに人生を終えることとなりました(時代の先駆者あるあるですね)。
この手法は「仮説演繹法(えんえきほう)」と呼ばれるもので、今日では科学研究の際に広く取り入れられています。そんなことは知る由もないゼンメルワイスですが、彼の功績はその後多くの命を救うことになりました。皆さんも手洗いの際にこのことを思い出してあげれば、彼も草葉の陰で喜んでくれることでしょう。
