- 発行日 :
- 自治体名 : 福井県鯖江市
- 広報紙名 : 広報さばえ 令和7年8月号 通常版
■第367回 文化財編(44) 嚮陽(きょうよう)に眠る金色の腕輪と導きの長(おさ)
昭和31年(1956)、西山公園の旧登り口に近い標高約25.6m付近(長泉寺山丘陵の東側斜面)を、サクラの施肥のために根本を30cmほど掘り下げたところ、9個の有鉤銅釧(ゆうこうどうくしろ)が出土しました。後に8個が東京国立博物館に、残る1個は鯖江市に寄贈されて平成10年に市指定文化財となりました。この出土地は弥生時代後期の墳墓遺跡と推定されますが、現在は公園整備の過程で遺跡の一部が残るのみとなっています。
一方で本州日本海側での有鉤銅釧の出土例は少なく、埋められた目的は明らかでないながら、この地域に稀少な青銅器を入手できる有力な勢力が存在したことを示しています。
さて、有鉤銅釧の祖型は琉球列島以南の深い砂地に生息するゴホウラ貝(大きな口唇部と一大結節の突起が特徴)という大型巻貝を縦切りにした貝輪です。弥生時代前期に北部九州で出現して以降、男性の腕輪(権威の象徴)として盛んに造られ、後に突起を強調して鉤形を表した青銅製の有鉤銅釧が畿内・東海・関東・北陸へと広まったようです。
南海の貝輪を模した有鉤銅釧を帯び、万物に宿る精霊や祖霊に奉仕して、遠くの地域と巧みに渡り合った首長は神々しく、強い姿で民衆の目に映ったことでしょう。
(文化課 藤田彩)
◇平成27年度指定の市指定文化財(1)
和田石採掘場跡(和田町)
新銅鐸出土地(新町)
有鉤銅釧出土地(西山公園)