くらし 【特集】つなぐ(1)

■ここにいていい。そう思える場所が、誰かの明日を支える。

今日
何時に行くとか
誰と行くとか。
約束のない
人と人とのつながり。
そのつながりによって
心が満たされることがある。
「またね」のひとことが
誰かの明日を後押しする。

そんな「居場所」が、いま、
この町に増えています。

有泉 はるひさん
「まちの保健室わくわくカフェ」事務局長

◆保健室のような居場所に
つなぐ×「まちの保健室わくわくカフェ」

町役場近くの、元医院に今年2月、「まちの保健室わくわくカフェ」がオープンしました。オープンから半年。週に2日の開放日には、さまざまな思いをもった方が訪れています。

この誰もが利用できる「居場所」として「空間」を提供するのは、まちの保健室わくわくカフェ事務局長である有泉はるひさん。有泉さんの思いに賛同した多くの方が集い、何度も打ち合わせを重ね、知恵を出し合い、県内外の事例を視察するなどして、ついにオープンすることができました。

有泉さんは、この元医院が実家。東京都内で就業していましたが、早期退職し、10年前にUターンで富士川町に帰ってきました。ご家族の介護や新たな仕事に追われる日々を過ごすなか、医師として患者と向き合う父と、待ち合いで患者に寄り添う母の姿を思い出します。

―父のように病気を治すことはできないけれど、いつも笑って患者さんと話をしていた母のようになれたら。大人がゆっくりと過ごせる場所を作りたい。

◇言葉がなくてもつながれる場所
「まちの保健室わくわくカフェ」は、毎週水・木曜日午前11時から午後9時まで開いています。その時間中、玄関はずっとあけっぱなし。

ある日玄関を入ると、奥から楽しそうな笑い声が聞こえてきました。またあるときは、誰もいないと思うほど静かでしたが、覗いて見ると、本を読んでいる方が。
それぞれ思い思いに、その日の気分や雰囲気で、誰かの居場所となっています。

チャイムが鳴らない、学校の保健室のような場所。元医院という雰囲気が、どこかノスタルジックで、懐かしい。

◇新たな学びやわくわくを
「かけない・吸わない・飲まない」の3〝ない”が原則である、『健康麻雀』を楽しむ方もいます。参加している深澤さんは、この時間をとても楽しみにしていると話してくれました。友人と麻雀をしながら、近況を報告し合う。そしてこの場所をとおして、世代を超えた出会いや発見があり、日々の活力になっているとのことです。

また、学びの機会として町の出前講座や、運営スタッフが自ら講師となる講座なども開かれています。
町福祉保健課職員が講師となる「健康教室」や、僧侶であり薬局経営者、まちの保健室わくわくカフェ代表・長谷川湛龍氏による『インターネットの使い方・落とし穴』、訪問看護ステーション経営者で、副代表・渡邉恭佑氏による「アンガーマネジメント講座』など、講師も講座の内容もさまざまです。ただ、誰かの心と身体に届いてほしいという思いはひとつです。

現在運営スタッフとして活動しているのは9名。年齢も過ごしてきた地も違う、さまざまな思いを持った方が集う「居場所」には、課題もあります。それぞれに丁寧に向き合い、話し合い、解決していきます。

「多くの方に支えられ、私の想いが形になってきたような気がしています。私も保健室に通っているひとり。言葉がなくても誰かとつながっている。そんな『居場所』になっていけたら嬉しいですよね。」
―有泉はるひさん

◆「懐かしさ」と「新しさ」が笑顔をつなぐ
つなぐ×駄菓子屋「ぐーちょきぱー」

青柳町区にある自宅の一角に、今年4月に「おしゃべりが楽しめる駄菓子屋さんぐーちょきぱー」をオープンさせた笹本泉さん。

笹本さんは、9年前から青柳町区で民生委員を務め、一人暮らしの高齢者の見守りや、いきいきサロンの活動に携わってきました。しかし、新型コロナウイルスの影響により、活動は制限され、人と人とがつながりを持つ機会はすっかり減少しました。コロナが落ち着いてからも、ライフスタイルの変化により、以前のような「つながる」機会を持てない日々は続きます。

◇世代を超えて過ごす場所に
そうしたなか、幅広い世代が集まり、気軽に会話を楽しむ場所があったらと考え、子どもから大人まで楽しめる駄菓子屋を開業することにしました。

現在は午後3時からオープン。小さなお財布を持った子どもたちが、目をキラキラさせながら駄菓子を選びます。

「くじが当たった!」
「これこの前食べたけど、めっちゃおいしかった!おじいちゃんにもあげたんだ」

子どもたちが、自分で選び計算しながら買い物をする。そんな経験が、新たなつながりを生んでいます。

「お孫さんとおじいちゃんが一緒にきてくれたり、友だち同士で楽しそうにお菓子を選んでいる姿は、とても微笑ましいもの。こうした何気ない時間を共有できるのって嬉しいですよね。世代を超えて、ホッと一息つける場所にできたら。」
―笹本泉さん