くらし 伊那市長のたき火通信

■少し遠回りの通勤路
車は田んぼの中の道を走ります。東に仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ)・間ノ岳(あいのだけ)・塩見岳(しおみだけ)の南アルプスの山々、正面には、将棊頭山(しょうぎがしらやま)と権現づるねの尾根が眼に入ってきます。毎朝の出勤風景です。いつの頃から私の通勤は、お気に入りの遠回りの道になりました。
国道361号を渡って段丘崖(だんきゅうがい)の道を下り、平沢(ひらさわ)の集落から横山(よこやま)へ通じる道を上がります。鳥居沢(とりいざわ)の洞(ほら)を過ぎて三叉路(さんさろ)までくると、将棊頭山は見上げるほどの近さになっています。ここから東に下ると、両側には広い高密植栽培(こうみっしょくさいばい)のリンゴ畑、酪農団地を過ぎるとまもなく伊那西小学校。さらに進むとますみヶ丘の信号機で大型農道を渡ります。富士塚グラウンドの信号機を右に曲がって市役所に向かうか、再び畑のなかを走って市役所に向かうか、その日の気分でルートは変わります。
春から今頃まで、私の通勤路では様々な季節の移ろいや花・鳥・虫たちとの出会いがありました。4月は花を楽しむ季節です。ピンクに咲く桃畑の向こうに見える将棊頭山、畑のなかにポツンと立つ西原会所(にしはらかいしょ)の桜、平沢集落にも桜とハナモモがあり、伊那西小学校にも桜が咲きます。広大なリンゴ畑の真っ白な花も見事です。鳥居沢の三叉路に一本だけあるコナシの花も毎年気になります。平沢へ下る林の道では、小さなヤブサメが道案内をしてくれたり、まだぎこちない飛び方のキセキレイの幼鳥や、クルミの実が車で轢(ひ)かれて割れるのを待つハトやカラスたちにも出合います。
春は道路を渡る毛虫たちにも注意です。できるだけ踏まないように車を走らせます。いつも不思議なのは、「毛虫たちはなぜ最短に道路を横切るのか?」、必死で歩く毛虫たちにはいつも「がんばれ!」と声援を送りたくなります。
三叉路で数人の小学生の集団に会うことがあります。おしゃべりをしながらの楽しそうな登校風景です。私の車が近づくと振り返える子もいます。小学校前の横断歩道には、ときどきPTAの皆さんが子どもたちを見守ってくれています。
少し遠回りの私の通勤道路ですが、天気も風景も気分も毎日違い、20分ほどの私だけの時間です。

伊那市長 白鳥孝