文化 〔特集〕未来につなぎたい地歌舞伎の魅力(2)

■受け継ぐ
次の世代の担い手となる子どもたちに地歌舞伎を伝え、伝統をつなぐ取り組みも行われています。
ここでは、各保存会が学校と共に行っている活動のうち東野と串原の例を紹介しますさらに、地歌舞伎を学ぶ大学生の思いを紹介します。
▽東野小学校 クラブ活動で4~6年が学ぶ
東野小学校では、4年生以上がクラブ活動に参加しています。クラブは3種類あり、子どもたちは好きなものを選択します。本年度、歌舞伎クラブには12人が参加。年に10回ほど地歌舞伎を学んでいます。
稽古には、東野歌舞伎保存会が当たり、毎年秋に行われる東野歌舞伎公演と、学校でのクラブ発表会が披露の場となっています。
11月に行われたクラブ発表会では、一年間の成果を堂々と発表。それを見た3年生からは「来年は私も歌舞伎クラブに入りたい」との声が聞かれました。

▽串原小学校 総合学習で5・6年生が学ぶ
串原小学校では、地歌舞伎を「ふるさと学習」に位置付け、5年生と6年生が総合的な学習の時間に、授業として学んでいます。
子どもたちは、5年生になると歌舞伎について自ら調べ仲間に発表しながら理解を深めます。さらに、9月から稽古を重ね、11月のふるさと祭りで子ども歌舞伎として披露します。
2年間かけてじっくり学ぶため、子どもたちには「地歌舞伎は串原の伝統」という意識が生まれています。

◆楽しかった歌舞伎クラブ
東野小学校6年生の千藤愛莉(あいり)さん(左)と青木香里南(かりな)さん(右)。3年間ずっと歌舞伎クラブを選択し「歌舞伎大好き!」と声をそろえます。
▽この楽しさを忘れずにいたい
保存会に入っている祖母の役者姿を見て、小さい頃から「かっこいいな」と思っていました。自分がやってみると、衣装やかつらが窮屈で苦しいことも…。でもお客さんが名前を呼んでくれるとうれしいし、演じ終わると達成感でいっぱい。本当に楽しかったです。
これでクラブは卒業ですが、この楽しさをずっと忘れずにいたいし、声をかけてもらったときは、また舞台に立ちたいです。

▽みんなに体験してもらいたい
今年度は、拍子木を鳴らす「附つけ打ち」を担当しました。見所で音を出すので全体を把握しなくてはならず、緊張しました。
地歌舞伎は、せりふを覚えるのが大変だけど、やってみるとすごく楽しい。歌舞伎クラブに参加することが地域の文化を守ることにつながっていると思うと、それもうれしかったです。下の学年の子たちにも、一度は体験してもらいたいなと思います。

◆大学での学びを、いつか地元に還元したい
飯地五毛座歌舞伎保存会・纐纈ほのかさんは、大学3年生。子どもの頃から舞台に立ち、いつしか地歌舞伎の沼にはまった一人です。大学で地歌舞伎を学ぶ纐纈さんの挑戦と思いを聞きました。
▽地歌舞伎との出会い
飯地では、小学校3年生になると、コミセンの子ども歌舞伎講座に参加できます。私も、みんながやっているからと参加していました。おひねりが飛んでくるのがうれしかったのを覚えています。
中学2・3年生の夏休みに自由研究で飯地の地歌舞伎を調べ、高齢化などで、その伝統を守っていくことが難しいことを知りました。3年生のときには、公演で初めて主役(瀧夜叉姫(たきやしゃひめ))を演じました。自由研究を通じて地歌舞伎について深く考えるようになっていたので、「見る人たちに姫の気持ちを伝えたい」と強く思いながら演じました。せりふも多く大役でしたが、終えたときは達成感がありました。

▽地歌舞伎を学びたくて
高校生になり進路を考えたとき、地歌舞伎をもっと学びたいと、日本の伝統文化が学べる大学を選びました。偶然にも、大学は、瀧夜叉姫の物語の地だったんです。「筑波山を舞台にした瀧夜叉姫を、筑波で上演したい」と受験の面接で訴えました。その夢は2年生のときに実現できました地歌舞伎を知らない人にもまずは見てもらいたいと、自分たちで台本を書き、衣装を買い、化粧をして、大学内の施設を借りて公演をしました。友達からは「初めて見たけどおもしろかった」「知っている人が演じていて楽しかった」と言ってもらえました。

▽地歌舞伎の魅力は温かさ
地歌舞伎は、演じるのも見るのも身近な人たち。舞台と客席も近く、誰が来ているのかも分かります。大きなホールではイヤホンガイドがあることも多いですが、地歌舞伎では普通ありません。だからその分、みんな目の前の舞台を一生懸命見てくれるんです特に飯地の五毛座では、演者と観客が一緒になって雰囲気を作る温かさを感じます。それが、地歌舞伎の魅力の一つだと思います。

▽関わり続けたい
今、さまざまな伝統芸能が高齢化や担い手不足に悩まされています。私も今は地元を離れていて直接携わることは難しいですが、公演があれば帰省して、少しでも関わりたいと思っています。大学で、全国の地歌舞伎を学びながら伝統文化の継承と発展のヒントを見つけ、いつか地元に還元できたらと思います。

◇瀧夜叉姫の物語とは
平将門の娘とされる瀧夜叉姫は、人を惑わす「妖術(ようじゅつ)」を使う人物として物語に登場します。地歌舞伎で演じられる「蟇(がま)妖術瀧夜叉姫筑波山岩屋の場」では、妖術を使って巨大なガマガエルとなった瀧夜叉姫が、源頼光の家臣と争います。