くらし 特集 戦後80年 つなぐ 記憶と想いのバトン(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 静岡県菊川市
- 広報紙名 : 広報菊川 令和7年7月号
―あの夏から、80年―
あの日から、多くの人々の努力によって平和の礎は築かれてきました。平和を次の世代につなぐため、この節目に、改めて戦争の記憶と平和への想いに耳を傾けてみませんか。
戦争を経験した世代の高齢化に伴い、当時を知る機会が少なくなっている現代。戦争の記憶や悲惨さを風化させることなく、次世代に伝えていくことが求められています。戦後80年の節目を迎える今、当時の体験・記憶を語り継いでいくために活動している皆さんの想いをお伝えします。
1.記憶の継承 それぞれの形で
◆我がまちの記憶と資料を後世に残し続ける
菊川市戦争体験を伝える会
戦争体験をつなぐ40年の歩み
今から40年前となる昭和60年8月、現在の「戦争体験を伝える会」の原点となる「『崩壊す・ビルマ戦線』出版記念の会」が開催されました。この本は、JR菊川駅前で開業した医師・木佐森恒雄(つねお)氏が、軍医としてビルマ戦線を生き抜いた体験を記した本です。当時、定期的に集まって「読書会」を開いていた市民有志が、出版を機に木佐森氏を招き、戦場での体験を語ってもらいながら読み進める会を企画。当日は、予想を大きく上回る94人が集まり、会は大盛況となりました。これを機に、市内の戦争体験者を招き話を聞く『聞く会』が毎年開かれるようになりました。これまでの語り部は、義勇軍に嫁いだ女性や、シベリア抑留された人、ろうあ者として戦場を生き抜いた人など、それぞれの立場から証言が語られ、来場者の心を動かしました。やがて、「『聞く』だけでなく『伝える』ことにも力をいれたい」との想いから、会の名前を「菊川市戦争体験を伝える会」に変更。市内に残る戦争の資料や写真の展示も行うようになり、現在も続けられています。
「地域」の記憶にこだわる
会の代表・北原勤(つとむ)さんは、「入会前、私は教員として歴史を教えていましたが、市内で何があったかには触れていませんでした。戦争体験者の話を初めて聞いた時は非常に衝撃で、語り継がなければいけないと強く感じました。そのため活動の当初から『市内の人』や『地域に残る資料』にこだわって活動しています」と話します。
昨年8月、菊川文庫で開催された展示会では、10日間で300人を超える来場者が訪れました。来場者からは「市内にこんなにも戦争の跡が残っているとは知らなかった。その場所に行ってみたい」、「胸が締め付けられる思いになった」など多くの反響が寄せられました。
今年も開催(詳細はp17)
◇語り部だけでなく資料の継承も課題に
高齢化に伴い、個人で貴重な資料を保管することの難しさや、家族に捨てられてしまったという声を耳にする機会が増えてきました。語り部だけでなく資料の継承も危機に直面していると感じます。市内の記憶を形として残すために、今後も記録や継承方法を考えていきたいです。
菊川市戦争体験を伝える会 代表 北原 勤(つとむ)さん
◆伝える側となる人を育てる
小笠南小学校 4年生
「一つの花」を学ぶ前に
6月、小笠南小学校4年生の教室で、戦時中の出来事を伝える授業が行われました。これは、国語の教科書にある戦争を題材にした物語「一つの花」の学習に先立ち、当時の背景を理解してもらうために実施されたものです。
授業では、広島平和記念資料館が公開している「原爆の絵」を使って、惨状を視覚的に伝えたほか、令和4年7月発行の「広報菊川(特集)」や朗読動画「戦没者御遺族の手記(市福祉課作成)」も活用。戦争が遠い場所の出来事ではなく、この地域にも深く関わっていたことを伝えました。授業を受けた中田優光(まひろ)さんは「自分の命も周りの人の命も大切だと感じた。命を大切にするために戦争はやりたくない」と話しました。
授業で使用された市作成資料は市ホームページ(右記)から閲覧できます。
※二次元コードは本紙をご覧下さい。
◆教え子を再び戦場に送るな
戦争体験を語り継ぐ会(静岡県退職女性教職員の会小笠支部)
平和の願いを語り継ぐ
昭和44年に結成された静岡県退職女性教職員の会小笠支部では、「教え子を再び戦場に送るな」というスローガンのもと、戦争体験者による語り部や資料作成などの平和活動を行ってきました。しかし、戦後70年以上が経過し、戦争体験者が減少。この状況下で今後どのように語り継いでいくかを考えるため、平成29年に「戦争体験を語り継ぐ会」を発足しました。現在は、菊川市・掛川市など東遠地域の元女性教員8人が、伝承活動などに取り組んでいます。
子どもたちに贈る授業
主な活動内容は、要請を受けた小中学校での出前講座。テーマは「空襲の恐ろしさ」と「食糧難の苦しさ」の2本柱で、戦争の悲惨さを伝えています。また「体験者の語りの力」が子どもたちの心を動かす大きな原動力になると考え、会の一員であり、国民学校4年生の時、妹3人を連れ静岡空襲の中を逃げた杉枝明子(あきこ)さんにその実体験を毎回話してもらっています。市内でも昨年、六郷小学校6年生に向けて授業を実施しました。その他にも「語ることができる今のうちに」と、戦争体験者12人の語りを収めたDVDと印刷物を令和4年に作成しました。
活動を続ける想い
現在、9年目を迎えた会の活動は、月に1回集まり、講座の打ち合わせや勉強会を行っています。活動当初は年間1、2件だった出前講座も、昨年は年間6件に増加。地道な取組が実を結び、子どもたちに「戦争の悲惨さ」と「命の大切さ」を伝え続けています。
平成3年に同支部が作成した戦争体験記『絣(かすり)のもんぺ』を手に、会員の梅津純子(じゅんこ)さんは「先輩たちが作り上げた資料とその努力は大変素晴らしいものです。同じ会員としてこの貴重な資料と、中に記されている『想い』は受け継がなければいけないものだと感じています」と、会員として活動を続けている思いを話しました。
p17で紹介中
◇伝えると共に学び続けていきたい
児童から「戦争はなぜ起きるの?」と質問された時、「戦争の悲惨さ」を伝えるだけでなく、その歴史的な背景も私たち自身が学ぶ必要があることに気が付きました。この活動が子どもたちにとって平和を考えるきっかけになることを願い、これからも学び伝え続けていきたいです。
戦争体験を語り継ぐ会 代表 溝口 紀技(のりえ)さん
問合せ:市長公室広報係
【電話】35-0924