健康 私のカルテ No439

■大腿骨近位部骨折について
津島市民病院 整形外科部長 根本致平(ねもとちへい)

◇はじめに
人の体には206個もの骨がありますが、そのうち膝から太ももの付け根まである棒状の長い骨が大腿骨です。体重を支えたり、歩くときに重要な役割を果たしています。この大腿骨が太ももの付け根のところで折れるのが大腿骨近位部骨折であり、突然の痛みとともに多くの場合歩けなくなり、患者さんは病院へ運ばれて来ます。

◇頻度
日本では総人口に対する65歳以上の方の割合が29.1%を占め(2023年)、今後もこの高齢化が進むものと推測されています。また、高齢者が介護を受ける状態におちいる原因の第4位が、骨折と言われています(国民生活調査2019年)。今回取り上げる大腿骨近位部骨折は日本では年間約17.5万例の発生数があり、男性3.7万、女性13.8万となっています(2012年現在)。

◇原因
若い世代であれば高いところなどから転落や激しい交通事故などが原因になりますが、高齢者の場合は違います。尻もちをつくなど、立ち上がった高さから転んでも起こる、日常生活の中でありふれた骨折です。多くは年齢的に骨がもろくなっていること(骨粗鬆症)が原因であり、女性が男性よりも約3倍この骨折を起こしやすいのは、加齢にともない女性ホルモンが減り骨粗鬆症が進むこともひとつの原因です。

◇治療
手術せず骨がつくのを待つ治療(保存治療)、または手術治療かのいずれかですが、手術に体が耐えられないなど、特別な問題がなければ早めに手術を行う場合がほとんどです。なぜなら保存加療の場合、リハビリの開始が遅れ、ベッドで寝ている時間が増えてしまうからです。安静のためとはいえ高齢の方が長い間ベッドで寝ている時間が多いことは、いろいろな問題につながります(廃用症候群)。手術治療の場合、通常であれば早い段階から座る、立つ、歩くといったリハビリが可能であり、これは廃用症候群の予防につながります。

◇廃用症候群
病気やケガが原因でベッドの上などで長い間安静が必要となり、動く機会を失うことで起こるさまざまな状態を言い、以下のような問題があります。
(1)筋力の低下(寝たきりになると1週間で筋力は1割ほど低下すると言われます)、関節が硬くなる、骨粗鬆症の進行
(2)心臓など内臓の働きの低下
(3)血栓塞栓症(血行が悪くなり血管がつまる)の発生
(4)誤嚥(ごえん)性肺炎(食べ物や唾液が気道に入ることで起こる肺炎)の発生
(5)認知症の進行など手足の筋力の低下にとどまらず、内科的な体全体の問題につながることが重要です。

◇手術治療
大腿骨近位部骨折は「大腿骨頸部骨折」と「大腿骨転子部骨折」に大きく分けられます。大腿骨の折れる場所の違いで分けられますが、どちらの骨折であるかによって手術方法は違います。折れた骨のズレを戻してスクリューなど専用の金属固定材料で固定するか、人工物に入れ替えるかのいずれかの方法となります。

◇骨折の予防
手術がうまくいっても、骨粗鬆症の治療が順調でも転んでしまうと骨折はまた起こります。まずは転倒の予防です。視力が悪かったり、飲んでいる薬の副作用で転んでしまう場合もあり、転びにくい生活環境作りや薬の調整も大切です。もう1つは骨粗鬆症の治療です。定期的に検査で骨密度を調べ、内服薬や注射による治療や、日光にあたっての適度な運動やカルシウムを多く含んだ食物の摂取などが良いとされます。

◇さいごに
一度でも大腿骨近位部骨折を起こされた患者さんは、初回骨折を起こしたところの周囲や反対側の大腿骨に2度目の骨折を起こしやすく、自宅生活や介護サービス、医療機関が一体となって骨折の予防に取り組んでいく必要があります。