健康 私のカルテ No448

■高血圧のはなし
津島市民病院 循環器内科医長
林 拓海(はやしたくみ)

◇日本における高血圧患者
高血圧患者は、今日本に4,300万人と推定されています。そのうち、3,100万人が血圧管理不良といわれています(高血圧を認識していない方が1,400万人、認識はしているが未治療の方が450万人、治療を受けているが管理不良の方が1,250万人と推定されています)。つまり、血圧をしっかり管理できている方は少ないと判断できます。外来には健康診断で血圧が高いといわれた方が多くいらっしゃいます。まず私たちは、「家庭での血圧測定」を推奨しています。健康診断や病院で緊張して血圧が上がってしまうことは当然の反応であり、その数値のみですぐに判断はしません。
普段と同じ環境、リラックスできる家で血圧を測定して平均値を見ていくことが、本当の血圧を把握していく第一歩となります。朝起きて、トイレに行ってから、椅子に座って少し休んで測定してください。至適血圧(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)を超えてくると心筋梗塞、脳卒中、慢性腎臓病などを発症するリスクが高くなります。収縮期血圧130~140mmHgは、正常高値という高血圧一歩手前の状態です。

◇治療を始める意義
ではなぜこんなにも治療未介入、管理不良の患者さんが多いのでしょうか?理由の一つに、「血圧が高いことによる症状が乏しいこと」があげられます。脂質異常症、糖尿病などと並び「生活習慣病」と呼ばれる高血圧ですが、治療の目的は「症状の改善」ではなく「将来のための予防」が大きな意味を持ちます。
ではこれらの生活習慣病を放置するとどうなるのでしょうか?脳出血、脳梗塞、心筋梗塞や狭心症といった大きな病気になるリスクを高めてしまいます。これらの病気は命を落とす危険性があるだけでなく、発症したのちの人生に大きな影響を及ぼします。脳の病気は麻痺を起こし、場合によっては寝たきりの生活になります。急性心筋梗塞は発症すると3割の方が病院に到着される前に死んでしまう恐ろしい病気です。糖尿病は神経、目、腎臓などに合併症を引き起こします(透析導入の第一位は糖尿病性腎症です)。
循環器内科は主に心筋梗塞、狭心症といった病気を扱う科であり、もちろん高血圧の管理も専門として行っています。私たちは立場上、心筋梗塞や狭心症という病気の恐ろしさを誰よりも知っているため、原因の一つである高血圧の管理には気を付けています。将来のための治療になかなか取り組めない方にしっかりと説明し、意識を変えてもらうことも我々の役割と考えます。

◇高血圧の治療
高血圧の治療はまず、血圧を上げやすい生活習慣の是正からです。まずは食生活、減塩が大切です。日本人の平均塩分摂取量は男性11.0g、女性9.3gと言われていますが、学会が定める目標値は男性8g、女性7gです。調味料を減量し、インスタント食品を避ける、食品の食塩含有量をチェックすることから始めましょう。ほかにも適度な運動、禁煙など効果が確立されていることを組み合わせ、目標値まで血圧が下がらない場合には薬を処方します。薬と違い、生活習慣の是正はすぐに効果を実感しにくいものですが、血圧を下げるためだけではなく、健康で長く生きるためにと思って続けることが大切です。