文化 夢キラリ人

■音楽が導く遥かなる道
鈴置 紘一朗さん

「僕の音楽を通して得た経験を、次の世代の人たちのために役立てたい」と語る、市出身のクラリネット奏者・鈴置紘一朗さん(31歳)。穏やかな風貌ながら、プロとしての演奏活動と並行して、音大生オーケストラを率いる熱い情熱の持ち主です。
大府中学校の部活動でクラリネットに出会い夢中になった鈴置さん。高校時代に東京大学の「音楽部管弦楽団」の演奏に感激し入学を決意。2年の浪人生活を経て合格をつかみます。入部選考会も通過し、楽団員として多くの経験を積み、成長する喜びを感じる日々だったと話します。
将来は遺伝子の研究者になると決め、論文制作の実験に追われていた4年生の夏のこと。演奏する時間が減り、この先も音楽と遠ざかる日々が続くと思ったとき「未来が暗く見えた」と、自分にとって音楽がいかに大切だったのかを実感します。
研究者か、音楽家か―。家族に何度も相談し熟考した末、鈴置さんは音楽の道を選びます。卒業後パリの音楽学校に留学し、さらに東京藝術大学別科で学びを深めます。
帰国後多くの日本の音大生と交流するうちに、意外にも彼らに演奏会の機会が少ないことを知ります。演奏会が豊かな学びの場であると自身の経験から感じていた鈴置さん。学校の枠を超えた若手オーケストラの演奏会を仲間に提案します。口伝えでメンバーが集まり、演奏会は大盛況のうちに幕を閉じました。
今年の春、藝術大学での学びを終えた鈴置さん。プロとして活動しながら、音大生のためのオーケストラを正式に組織し、演奏会を継続することを決めます。5月には第一回定期演奏会を開催し、約80人の音大生と共に、3曲を披露しました。
曲目には、学生の今後の糧となるものを2曲、そして日本生まれの管弦楽曲を盛んにしたいという願いを込め、邦人作曲家の作品を1曲加えていると話します。
音楽に導かれ、想像を超える道のりを歩んできた鈴置さん。努力を重ねながらも、全ては周囲の理解と応援のおかげだと話します。
演奏に喜びと感謝の気持ちを乗せ、次世代の音楽家と共に、進化を続けていきます。

鈴置さんの率いる「ニュー・エポック・オーケストラ」の次の演奏会は11月22日(土)。
東京都板橋区立文化会館大ホールで行われます。