文化 ふるさと再発見 Re:discovery Omihachiman 第79回

■文化財の保存修理(3) 旧伊庭家住宅
今回は市内に数あるヴォーリズ建築のひとつであり、また住友とも縁が深い旧伊庭家住宅を、建てられた当時の様子や保存修理、増改築の経緯を交えながら紹介したいと思います。
旧伊庭家住宅は住友第2代総理事・伊庭貞剛(ていごう)の四男である伊庭慎吉(しんきち)の住居として、大正2(1913)年に建てられました。ヴォーリズの設計により建てられた洋風住宅で、現在は市指定有形文化財(建造物)に指定されています。
伊庭慎吉はフランスに美術留学後、現在の八幡商業高校で美術教師として勤務したほか、沙沙貴神社の神主、安土村の村長などさまざまな要職を務めました。画家として活動を行っていたこともあり、旧伊庭家住宅にはしばしば画家や文人俳人などの文化人が訪れ、創作・憩いの場として使用されていました。建物や家具、調度品の意匠は細部にこだわりが見られ、ヴォーリズ建築的な十字窓や丸みのある優しい雰囲気の階段をはじめ、数寄屋造りを思わせる網代天井や船底天井、現在ではほとんど生産がされていない結霜(けっそう)ガラスや京都産の泰山タイルを使うなど、近代建築の髄(ずい)を窺うことができます。
大正2(1913)年に建てられた写真(2)の左側の建物(主体部)では屋根がスレート葺きハーフティンバーで外壁が漆喰仕上げ、下段はスタッコ仕上げなど洋風建築の趣ですが、昭和9~10(1934~1935)年に増築したと思われる写真(2)の右側の建物(玄関建物)は屋根が瓦葺き、土壁で仕上げるなど和風建築が取り入れられていることが分かります。このように和風建築を増築することで現在の建物の原型が造られています。平成28年には大屋根のスレートを葺き替える大修理が行われており、スペイン産の天然石を取り寄せて使用しています。そして令和7年度には耐震診断を行う予定です。
旧伊庭家住宅は保存修理を何度も行いながら、この先も地域の宝として後世に受け継がれていくことでしょう。

写真(1)南側外観
写真(2)北側外観(主体部と玄関建物)
※写真は本紙をご覧ください