文化 佐川美術館アートコラム(95)

■ピエロに重ねた画家の心情
佐川美術館
学芸員:深井 千尋(ふかいちひろ)

日々新たなエンターテイメントが生まれては消える現代において、18世紀末にイギリスで始まったサーカスは、今なお続くクラシックなエンターテイメントではないでしょうか。人々を魅了し続けてきたサーカスは、ピカソやシャガールをはじめとする多くの芸術家たちをも虜とりこにし、しばしば絵画の主題としても描かれてきました。
サーカスといえば楽しげな情景が思い浮かびますが、画家たちは華やかなショーの裏側に見え隠れする演者の孤独や悲しみにも焦点を当てました。中でもひときわ異質にサーカスを描いた画家として、ベルナール・ビュフェ(1928-1999)が挙げられます。ビュフェは大阪梅田にある阪急三番街のシンボルマークも手掛けており、外壁に掲げられた蝶(ちょう)のモニュメントを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
ビュフェの描くサーカスの中で特に人気を博したのは、にぎわいや楽しさ・躍動感といったサーカスらしい要素を一切排除したピエロの肖像でした。1968年、ビュフェは自らに化粧を施しピエロに変身していく映像を公開しています。美術界の潮流が抽象絵画に傾く中、フランス具象絵画の新星として頭角を現したビュフェは批判や注目の的になることも多く、哀愁漂うピエロの顔は孤独や葛藤を抱える画家の自画像とも解釈できます。
佐川美術館では、ピエロを描いた作品をはじめビュフェ作品を一堂に展示しています。ぜひ、画家の心情に想おもいを重ねてご鑑賞ください。

※開館情報は、佐川美術館ホームページでご確認いただくか、電話〔【電話】585-7800〕でお問い合わせください。