- 発行日 :
- 自治体名 : 京都府木津川市
- 広報紙名 : 【京都府木津川市】広報きづがわ 2025年3月号
■もの忘れ~記憶のお話
伊左治医院(笠置町) 伊左治友子医師
「うちのおばあちゃん、さっきごはんを食べたのに覚えていないんです。でも、昔の事は私なんかよりずっと覚えているんです。」よく聞かれる話ですが、実はこれが問題なんです。
例えば、買い物に出かけて駐車場に車を止めます。止めた場所を忘れてしまうと大変ですが、家に帰ってしまえば必要のない記憶です。そこで私たち人間の脳は、そんな記憶は寝ている間に捨ててしまいます。これをエピソード記憶と呼び、海馬と呼ばれる所の働きです。
さて、あなたは1週間前に食べた夕食の献立を覚えていますか。多分忘れてしまって出てきませんよね。きっと捨てられてしまったのです。でも「1年前におばあちゃんの米寿のお祝いで、家族でホテルに出かけて食べた中華のフルコースは忘れられないわ。特に最後の杏仁豆腐は味まで出てくるわ。」なんて、覚えている事がありますよね。脳には好き嫌いセンサーがあって、とてもうれしかった事や印象に残った事、そしてイヤだった事や腹が立った事は捨てずに記憶に残るよう、寝ている間に整理して側頭葉という所に貯めているのです。3+3=6、7×9=63なんて小学校の時に覚えた計算は忘れずに覚えていますよね。それは前頭葉の働きと言われています。
アルツハイマー型認知症は、脳の中でもエピソード記憶に関わる海馬という所が1番最初に障がいされると言われています。もし、あなたの家族が昔の事はよく覚えていて、さっき食べたごはんの事をしょっちゅう忘れているようなら、一度「もの忘れ外来」に相談してください。かかりつけ医の先生に相談すると紹介して頂けると思いますよ。
そして、できるだけ楽しい事、うれしい事が沢山ある毎日を送ってください。こどもの頃は1日1日が長かったのに、年を取るとあっというまに1年が過ぎ去っていくのは感動する事が無くなったからと言われています。まだ経験の少ないこどもは、日々起こる事が新しく、あれもこれも記憶に残そうと好き嫌いセンサーもフル回転しています。だから1日が長いのです。大人になって歳を取り毎日が平凡で同じ生活になると、記憶に残したい様な体験が起こらなくなってしまいます。気がついたら1年が過ぎていたとなってしまわないように、ワクワクした気持ちで過ごしたいものですね。あなたも、おばあちゃんも。