- 発行日 :
- 自治体名 : 大阪府枚方市
- 広報紙名 : 広報ひらかた 令和7年4月号 No.1340
内なる自分を表現する現代アーティスト・書家
稲垣 尚毅さん
◆いながき なおき
「書」と「絵」の表現を武器に関西各地でライブパフォーマンス披露や作品展を開催。アディダスホームページなどメディア掲載も多い。5月に香港で開催される「Affordable Art Fair Hong Kong」への出展も決定するなど活躍の場を広げている。南楠葉在住。36歳。
◆人生の「×」も大切な自分の一部。そして、周りにはもっと「〇」もある
黄色、青、緑とアクリル絵の具を筆で思いのまま塗っていく。マーカーで引く線は一見無作為だが、いつの間にかキャンバスにはボクサーのようなキャラクターの姿が浮かぶ。絵の着地点は描きながら決め、悩んだ時は庭で土や草に触れ自分と向き合う。「自然に囲まれ余分な情報を断つことで他人に引きずられないようにしています」
22歳の時、尊敬する父が病で亡くなり命の有限性を痛感した。「一回きりの人生、やりたいことに時間を使いたい」。大学卒業後、鍼灸師として働いていたが26歳で「書」の道へ。中学生の時、自分の目を見て直感で言葉を書いてくれた書家との出会い以来、なぜか気になっていた世界だった。「怖い時こそ一歩前に出よう」「自分を一番優先する時があってもいい」。対面し感じたありのままの言葉を筆で書き下ろす書家となり、これまで8万人以上に作品を手渡してきた。「作品を通じて気持ちが伝わった感覚は何事にも代えがたいですね」
偶然訪れた服飾店で、もう一つの転機が訪れる。1980年代のアメリカの画家、バスキアの絵がプリントされたTシャツに心を突き動かされた。子どもが無心で描いたような自由で不規則な絵に「俺もこんな絵が描きたいねん!」と同じ画材を買い集め独学で絵を描き始めた。「表現するのは自分の感情。その軸だけは守っています」
最近、お気に入りの作品ができた。無数の「○」と数個の「×」で埋め尽くされたパネル。〇と×の両方があるから人生は調和している、という考え方は、鍼灸師だった時に学んだ陰陽論の考え方そのものだった。「自分の人生全てが作品に生きていると気付いたんです。×も大切な自分の一部で無駄なことじゃない。そして、周りにはもっとたくさんの〇があるはず。この作品を見た人にも、そう気づいてほしい」。彩りを増していく人生の全てを、これからもキャンバスへぶつけ続ける。