文化 ふじいでら歴史紀行 226

【アイセルシュラホールに大きな前方後円墳ができたよ! 5 古墳時代の信仰】
私たち人類にとって、死後の世界は永遠のテーマだと言うことができます。古代エジプトでは、死者の肉体をミイラにしました。これは、死後来世で復活すると信じ、その時のために肉体を保存しようとしたのです。
また、日本列島では、阿弥陀二十五菩薩来迎(あみだにじゅうごぼさつらいごう)の信仰があります。来迎とは、臨終の際、生きとし生けるものを極楽浄土に導くため、仏が迎えに来ることです。この信仰は平安時代まで遡り、阿弥陀三尊二十五菩薩像(あみださんぞんにじゅうごぼさつぞう)のような仏像や絵画としてあらわされてきました。そこでは、阿弥陀如来と、脇侍(きょうじ)である観音(かんのん)菩薩と勢至(せいし)菩薩をはじめ、諸菩薩がおられます。そして、あの世に向かう人は観音菩薩が手に捧げる蓮台(れんだい)に乗って、極楽浄土に導いてもらえるとの信仰です。
ところで古墳時代にも、死後の世界についての信仰はあったようです。先月お話ししたように、大きな前方後円墳の後円部頂には盾形(たてがた)埴輪や靫形(ゆぎがた)埴輪、鶏形(にわとりがた)埴輪に守られて、家形(いえがた)埴輪が配置されていました。家形埴輪は、古墳の被葬者の魂が宿る家を埴輪であらわしたものです。立命館大学名誉教授の和田晴吾さんが名付けた「天鳥船(あまのとりふね)信仰」では、古墳時代の人々は、死者の魂は鳥に誘われた船に乗って他界へと赴き、そこで安寧な暮らしを送ると考えていました。
前方後円墳では、「天鳥船信仰」がどのようにあらわされているのでしょうか。アイセルシュラホールのジオラマで、その様子を見てみましょう。まず、造出(つくりだ)しと呼ばれる四角い突出部と後円部との間の濠の中をご覧ください。そこには船形(ふながた)埴輪が置かれています。これは死者の魂が乗ってきた船をあらわしています。その奥には水のまつりを行った導水(どうすい)施設を模した埴輪があり、船から降りた死者の魂はここを経て造出しに上がっていくことになります。
造出しの上には、水鳥形(みずどりがた)埴輪、家形埴輪などが配置されています。死者の魂は、造出しで滞在した後、墳丘を登っていきます。埴輪列には埴輪が立てられていない切れ目があることをお分かりいただけると思います。この切れ目を通って墳丘を登ることをあらわしているのです。
やがて前方部頂に上がった死者の魂は、後円部頂をめざして斜面を登っていきます。そして、魂の宿る終のすみか、家形埴輪にたどり着くのです。
以上に見てきたように、古墳時代の信仰は、前方後円墳の埴輪の配置で視覚的にあらわされました。人類は、これまでの歴史の中で、死後の世界についていろいろなことを考えていたようです。今に残された歴史資産の中にも、当時の人々の信仰が形としてあらわされているものがあるのです。
(文化財保護課 新開 義夫)