- 発行日 :
- 自治体名 : 兵庫県丹波市
- 広報紙名 : 広報たんば 2024年11月号
■旅人「はる」が持っていた偽の往来手形(おうらいてがた)
丹波市文化財保護審議会委員 山内順子
往来手形とは、江戸時代に旅行をする人が持つ身分証明と身体保護要請が記された現代のパスポートのような機能を持つ文書です。
市島地域梶原にある民家に保管されていた往来手形(写真(1))は、現在の神戸市兵庫区にある野福寺が発行し「はる」という名の旅人が持っていました。彼女は、巡礼の旅に出ましたが丹後国で病気になり、村から村へと継ぎ送りされてきたものの、梶原で亡くなってしまったのです。彼女の遺体や所持品を検分した役人が記した文書(写真(2))に「44〜45歳くらい・尼さんのような恰好をしている・左腕に彫物がある」と特徴が記されています。また「遺族に連絡をするため往来手形の住所地に問い合わせたが不明だ」と困惑が記されており、最終的には「拵(こしら)えた偽造の往来手形ではないか」と疑っています。
しかし、はるが病気になり、丹後から多くの人々の援助を経てたどり着いたことは事実で、梶原村の人々はそのことも考慮して、きちんと埋葬しています。
江戸時代には、罪を犯したり勘当されたりしたことが原因で、住所地を追放されたために旅人となり、旅先の人々の施しを頼って生活していた人たちもいました。彼らは正規の往来手形を取得できなかったので、偽造したものを手に旅に出たのです。はるさんの左腕の彫物が罪人を示す入墨だとすると、彼女が所持していた往来手形が偽物だった理由がわかります。
旅行を楽しむ旅人が大勢いた江戸時代、生きるために旅を続けざるを得ない人々がいたことを2枚の古文書は教えてくれました。
※写真は本紙をご確認ください。
問合せ:社会教育・文化財課(山南庁舎内)
【電話】70-0819