- 発行日 :
- 自治体名 : 奈良県宇陀市
- 広報紙名 : 広報うだ (2025年7月号)
本年は、第二次世界大戦終結から80年を迎えます。戦争を知らない世代が社会の大半を占める時代となりました。戦争の記憶を風化させないために、今回は戦争体験をされた宇陀市の顧問弁護士である藤村 睦美さんにお話をお伺いしました。藤村さんは現在88歳。小学生のときに戦争を体験されています。
・藤村 睦美さん
・人権推進課 小野課長
小野:戦争を体験された当時のことは覚えておられますか?
藤村:国民学校2年生のとき、兵隊さんが出征しますので、国語の時間には、戦地に行った兵士に対する慰問文というのを書きました。2年生の終わり、あるいは3年生のとき、つまり昭和19年の終わりから昭和20年の初め頃になると、学校の先生に招集があり、男の先生は兵隊に行かれるわけですね。それを生徒が日章旗と旭日旗を持って榛原駅へ行き、万歳三唱してお送りしました。戦争も終わり頃になると、出征され、戦死した先生に対して、校長先生が生徒を集めて、国に殉じて立派に戦われたという賛美する訓示をしておられました。
小野:戦前と戦後で教育はガラッと変わりましたか?
藤村:戦争の終わりの方は、あまり学校の教育というものをきちっとできるような状態ではありませんでした。戦後は国が荒廃し新しい教科書がすぐできませんでした。また食糧難でしたから、運動場の半分にサツマイモを植えて代用食としていました。「すいとん」といって、雑炊のようなところに小麦粉の団子を作って入れるとか、食べることができる野草を採集して炊き込み、量を増やして空腹を満たすというような食事でした。ときにお弁当を持ってきている人がいましたが、体育の時間が終わって教室へ戻るとお弁当が空になっていました。欠食児童が多かったものですから、弁当窃盗事件みたいなことは、しょっちゅうありました。
小野:宇陀市での戦争被害を教えてください。
藤村:新町の列車襲撃事件。戦闘機が非常に低空を何度も飛んでいました。近鉄の列車の方へ飛んで行き、射撃しているのを聞きました。その時、大阪方面へ向かう列車が戦闘機に狙われているというので、榛原駅の西側にあるトンネルに入って銃撃を避けようとしていたと聞きました。しかし電車の送電線が切れて走行できなくなり、新町の高架の上で停車しました。列車の乗客を狙撃するというので、戦闘機が西峠の方で何度も旋回をし、狙撃を繰り返していたのを見た記憶があります。空襲警報が解除された後、現場へ被害状況を見に行きました。死者や負傷者を近くの酒蔵に収容していて、中に入った瞬間血なまぐさいにおいがし、横たわっている負傷者のうめき声が聞こえてきました。これが皮膚感覚として覚えている戦争体験の一つです。
小野:日本はこの80年間戦争をしませんでしたが、どのように思われますか?
藤村:今も世界では戦争や紛争が起きています。戦争の直接の原因など、学者によっては色々言いますが、人の心の内側にあるもの、こういうものは、いつも戦争というものと向き合って考えないといけないと私自身は自戒しています。毎日のように破壊と無差別殺人が繰り返されています。こういうことを人間が普通にやるんだという、人間というものは昔からちっとも変っていません。そういうものを恐れないといけないと思います。自分自身の内にあるそういう悪魔のような、希望のない気持ちに平気になることができる存在だということを常に理解しないといけないと思っています。
小野:この平和な世の中をどのようにご覧になりますか?
藤村:日本は今、戦争がないという意味では平和に暮らせていると思いますが、日本だけを考えると、非常に飽食、浪費の時代なので、こんなことをしていていいのかなと思います。僕はいつもゴミ出しをしますが、プラスチック一つとってもこんな使い方をしていいのかと思います。なかなか人間というのはあまり知性は進みませんね。ギリシャ時代から人間というのは進化していないのではないでしょうか。このままいくと、人間は人間そのものを浪費してしまう時代が必ず来るのではないかという気がします。
小野:現在平和を享受して生きているのは、戦没者の方の尊い犠牲の上に成り立っていると思います。この平和を維持するため、あるいは二度と戦争を繰り返さないために、私たちはどのようなことができますか?
藤村:日本人はもっと自分の考えていることを口に出して言わないと駄目です。言論統制のある時代は言いたいことも言えませんでした。僕は少数意見であっても常に言うように心がけています。色々な意見があるという世の中にならないといけないと思います。
小野:若い世代では、周りに戦争経験をされた方が少なく、戦争を歴史の一つのように感じてしまう部分があります。戦争を知らない世代に向けて、一番伝えたいことを教えてください。
藤村:歴史に学ぶといいますが、世界で起きている戦争や紛争に対して、なぜこんなことが起きるのかということを自分で理解できるように、記事だけではなく具体的によく見るということです。記事を読んだり教えられたりするだけではなくよく見て、能動的に考えることが一番大切だと思います。
小野:市民の皆さまにお伝えしたいことはありますか?
藤村:感謝しかないです。榛原の地で生まれて、高等学校も榛原で卒業させていただいて力添えをしてくださる方もいて、ふるさとのありがたさ、感謝しかありません。
小野:市民として、そのように言っていただきとても嬉しいです。藤村さん、貴重なお話をして下さりありがとうございました。
詳しいインタビュー内容は、うだチャン11の「講演会等」で7月中に放送します。ぜひご覧ください!