くらし 大阪・関西万博 特別インタビュー

■テーマ事業プロデューサー 河瀨直美さん
Dialogue Theater-いのちのあかし-
Signature Pavilion produced by KAWASE Naomi

-「生きている校舎」と感じた
旧折立中学校の木造校舎が万博の舞台に選ばれた理由

大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater-いのちのあかし-」に活用されている旧折立中学校の木造校舎。数ある候補の中からこの校舎が選ばれた理由について、テーマ事業プロデューサー・河瀨直美さんにお話を伺いました。
「この校舎は『まだ生きている』と感じました。それに、折立集落の人々が、自分たちで植えた木を使ってこの校舎を建てたということ。自分たちの子どものために、自分たちの手で校舎をつくる—その想いが素晴らしいなと思いました。そして今も空間に息づいていると感じたんです」
建物だけではなく、そこに根を張った木々やツタにも、人々の想いや歴史が宿っていると河瀨さんは語ります。
「ツタひとつも校舎の一部であり、植物に宿る、目に見えない人々の思いもまた、この場を形づくっているんです」

◇分断を「つながり」に変えるために-パビリオンに込めた願い
以前、十津川村を訪れた際、河瀨さんの心に残ったのは、村の人々の精神—「助け合うわだ」という言葉でした。
「人と人がわかり合えないこともある。国同士では争いにまで発展することもある。でも、『助け合うわだ』という言葉、そこに裏打ちされる、十津川村の人々の暮らしと日常に宿っている助け合いの精神は、分断を『つながり』に変える大きなヒントになると思います」
このパビリオンでは「対話」を軸に据えています。人と人の心をつなぎなおし、「あなたと私は違うけれど、わかり合える」と感じる場となることを目指しています。
「私たちは誰しも違いを持っている。でも、同じ地球という船に乗っている、同じ人類です。違いを『つながり』に変えていくほうが未来は明るい。『対話』を通じて感じる、あなたの中に私がいて、私の中にもあなたがいるということ。
過疎が進み、経済が優先してしまう現代社会ですが、十津川で私が感じた人のつながり、目には見えなくても、語り継がれ、継承されてきたものです。十津川の精神は、きっと世界を救う力になると感じています」

◇会期後もこの想いを残すために
現在、この校舎を万博終了後にどう活用していくかも検討中とのこと。
「壊したくはないです。どこかに移築して再活用する方法を探っています。いろんな人の声や力をお借りしながら、この場所に宿る精神を未来へつないでいきたい。十津川村から出ていかれた人も含め、ぜひ皆さんにも、ご協力・お声がけいただけたらうれしいです」