文化 写真家 廣池昌弘(2)

■世界で活躍する写真家廣池昌弘から世界へ挑む次世代へのメッセージ
写真家として世界で活躍する廣池昌弘さん。陶山清孝町長との対談を通して、南部町の次世代を担う子どもたちへのメッセージなどを語っていただきました。

◆エンジニアから写真家へ
廣池:私はもともとエンジニアで、広島大学を出てから建設機械のメーカーに入り、ダンプトラックをロボット化するプロジェクトに入ったりしていました。6年ほど務めて独立し、その頃はインターネットが普及し始めた頃で、ホームページを作る仕事をしていました。全国のホームページコンテストで2位になったこともあります。その後、写真を表示するプログラムを作り始めて、そのシステムを売るために、写真のサンプルが必要になり写真を撮り始めました。それからコンテストに応募するようになり、約10年後の2015年に、オリンパス・オープンフォトコンテストでグランプリをいただきました。

◆ヒメボタルとの出会い
廣池:2017年に国内のフォトコンテストでヒメボタルの作品がグランプリを受賞しました。それからヒメボタルは私のライフワークになりました。遠征して風景の撮影もしますが、ヒメボタルは車で数分で行ける範囲にたくさんいるということも分かり、地元で深く撮り続けていくのに適している被写体でした。
陶山:廣池さんたちの活躍で、町内にヒメボタルがいるんだということを知った人が多くいると思います。私も家の近くの杉林でヒメボタルがいるというのをつい先日知りました。そういった面でも、生物多様性を大切にしている南部町の力になってくださっていると思います。

◆南部町で撮られた写真について
廣池:南部町には被写体がたくさんあります。
桜並木の雪景色を撮った写真では、オリンパス・オープンフォトコンテストでグランプリを受賞しましたし、ヒメボタルは10年以上撮影していますが、ソニーワールドフォトグラフィアワードだけでなく、国内のフォトコンテストでもグランプリを受賞し、アメリカのコンテストでは10万枚の応募作品の中から45枚の受賞作品のうちの1枚に選ばれました。彼岸花についても、昨年、家庭画報という雑誌に6ページにわたり南部町で撮影した写真が掲載されました。
陶山:彼岸花は赤いイメージがありましたが、蕾が紫に見えます。それに写真なのに立体的に見えるというか、存在感がありますよね。こんな写真はなかなか撮れないなと思います。
廣池:写真を撮り始めて分かったのですが、南部町の彼岸花は中国地区で1番の規模だと思います。ひとつの場所にというよりかは、田んぼの脇とか柿畑の中とか町内のいたるところで咲いていて、他の地域と比べても珍しいと思います。

◆今後の目標について
廣池:ひとつ目は、まだ世界で2位にしかなっていないので、世界一になるまで挑戦したいと思います。
ふたつ目は、写真家として食べていくにはいろいろと壁があると感じています。現在、アメリカ写真協会など、国際的なコンテストの審査員を任されたり、海外で展示会を開いていただいたりしていますが、昨年、山と渓谷社からカレンダーが発売されるまで、日本の写真界での知名度はほとんどありませんでした。それはなぜかというと、日本の写真界と世界の写真界がつながっていないからなんです。それともうひとつは、写真を売るとなったときに、日本では写真を買うという文化が無いんです。現在、海外で作品を販売しようとしているのですが、海外では日本と違い写真がアートとして扱われているんです。そういった日本にある写真に対する壁をなくしたいという思いがあります。そして、写真界とアートの世界をつなげたい、日本の写真界と世界の写真界をつなげたい、こういったことができればと思っています。
最後は、写真の中にアートとしての新しいジャンルをつくりたいですね。ピカソのキュビスムのような、「廣池と言ったらこれ」というような、写真をアートとして認めてもらうためのジャンルをつくりたいと思っています。そのために最近は抽象的な写真の研究をしています。

◆南部町の次世代へメッセージ
廣池:私は英語ができません。海外には一昨年、ポーランドで開催していただいた写真展に行くまでは新婚旅行でしか行ったことがありませんでした。全く海外に挑戦しようというような人間ではなかったと思います。ですが、インターネットが世界をつなげてくれたので、誰でも世界に挑戦できるようになりました。特に写真の世界はスポーツと違い、地区大会、全国大会があり日本代表になってやっと世界に挑戦できるというわけではなく、直接、世界最高峰のコンテストに応募することができます。その環境は皆が持っています。あとは挑戦するだけです。自信を持って世界最高峰に挑戦してくださいと伝えたいです。
陶山:子どもたちの可能性は無限大とよく言われます。今は、おもちゃのカメラで小さいお子さんでも写真が撮れますし、使い捨てのフィルムカメラも流行していると聞きます。そういったもので小さい頃から感性を磨いてほしいと思います。
写真を通して廣池さんには子どもたちのきっかけになってほしいと思います。「子どもの頃、廣池さんに写真をほめてもらったのがきっかけです」みたいな子どもが第二、第三の廣池昌弘となり世界で活躍する、そういう未来がくることを期待しています。このようなかたちで子どもたちの未来に関わっていただけたら嬉しく思います。