文化 知っちょる?小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とセツ(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 島根県松江市
- 広報紙名 : 市報松江 2025年9月号
~Do you know? Koizumi Yakumo and Setsu~
9月29日から放送開始するNHKの連続テレビ小説「ばけばけ」は、小泉八雲の妻セツが主人公のモデルになっています。「ばけばけ」の放送を前に、八雲とセツの歩みと松江市の取り組みを紹介します。
■八雲とセツの歩み
◇1850年〔八雲〕
ラフカディオ・ハーン、ギリシャのレフカダ島でアイルランド人の父とギリシャ人の母のもとに生まれる。
◇1852年~1867年〔八雲〕
2歳の時に、母とともに父の実家のあるダブリンへ移り、その後大叔母に引き取られる。母がハーンを残しギリシャに帰国。両親が離婚し、父と生き別れに。
13歳でイギリスの神学校に進学。遊戯中の事故で左目を失明する。17歳の時、大叔母の破産のため神学校を中退。
◇1868年〔セツ〕
南田町に生まれる。まもなく親戚筋の稲垣家へ養女に出される。
◇1869年〔八雲〕
移民船でアメリカに渡り、シンシナティーに行く。
◇1874年〔八雲〕
地元新聞社の記者となり、混血黒人のアリシア・フォリーと結婚。
◇1877年〔八雲〕
アリシア・フォリーと別れ、ニューオーリンズに移る。
◇1879年〔セツ〕
内中原小学校の下等教科卒業後、家庭の事情で上等教科への進学を断念。実父の会社で織り子として働く。
◇1886年〔セツ〕
鳥取の士族・前田為二と結婚。
◇1890年〔セツ〕
前田為二と離婚。
◇1890年3月〔八雲〕
アメリカの月刊誌の記者として、ニューヨークを出発し日本に向かう。
◇8月〔八雲〕
島根県尋常中学校、師範学校の英語教師として松江に赴任。
◇1891年6月
ハーンとセツ、北堀町の士族屋敷(現在の小泉八雲旧居)でともに暮らし始める。
◇11月
熊本第五高等中学校への転勤に伴い、セツの家族と一緒に熊本へ。
◇1894年9月
『知られぬ日本の面影』出版
◇10月
神戸の英字新聞社に転職し、神戸に転居。
◇1896年2月
帰化手続きが完了し、「ラフカディオ・ハーン」から「小泉八雲」に改名。
◇9月
八雲の帝国大学文科大学講師の辞令発令により、家族とともに上京。
◇1904年4月
『怪談』出版
◇9月〔八雲〕
心臓発作により急逝(54歳)
◇1932年2月〔セツ〕
脳溢血により死去(64歳)
■日本にあこがれた小泉八雲
八雲はニューヨークで働いていたとき、『古事記』の英訳本に出合います。八雲はこの本で日本の古い文化が残る「出雲」という地の存在と出雲神話の面白さを知り、日本行きを切望するようになります。八雲自ら、日本取材の企画書を書き、特派記者として来日しました。
■「へるん言葉」でコミュニケーション
八雲は、てにをは(助詞)抜き、動詞・形容詞の活用なし、語順は英語式のいわゆる「へるん言葉」を使っていました。セツの手紙も八雲が理解しやすいよう「へるん言葉」で書かれており、手紙からは夫婦の仲睦まじさがうかがえます。
◇セツから八雲への手紙(1904年8月12日)
池田記念美術館所蔵
グド(グッド)、パパサマ、アナタ、ノ、カワイ(可愛い)、
テガミ、3トキ(度)、ワタシノテニ、アリ
マシタ、ヨロコビデ、ワライマシタト(笑いました)、
セップン、シマシタ、ヤイヅ(焼津)ノ、テイボヲ(堤防)、
ノ、エ(絵)、オモシロイデス子(ね)ー、(後略)
■「国際文化観光都市」松江の礎をつくった小泉八雲
本市は奈良市、京都市と並び国際文化観光都市に1951年に指定されています。松江国際文化観光都市建設法には「松江市が(中略)ラフカデイオ・ハーン(小泉八雲)の文筆を通じて世界的に著名であることにかんがみて、同市を国際文化観光都市として建設し(後略)」と記されており、八雲の存在が国際文化観光都市に指定される大きな要因となりました。
また、法律に個人の名前が記されることは非常に珍しく、八雲と松江の深いつながりを感じとることができます。
■セツと西洋人との出会い
セツが3歳の頃、実父が小隊長を務める軍隊の訓練を見に行ったとき、教官を務めたのがフランス人のワレットです。ほかの子が初めてみる外国人に驚き、泣いて逃げる中、セツがじっと顔を見上げているとワレットはセツの頭をなで、小さな虫眼鏡を渡したといいます。
セツはこの虫眼鏡を生涯大切にし、「私がもしもワレットから小さな虫眼鏡をもらっていなかったら、後年ラフカジオ・ヘルンと夫婦になることは、あるいは難しかったかもしれぬ」と回想しています。
■『怪談』のタイトルは出雲弁?
八雲の代表作『怪談』は、セツが「語り部」となり、八雲がそれを音で拾って、文学作品にまで磨き上げたものです。
セツが本を読みながら話すと、八雲は「本を見る、いけません。ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考えでなければ、いけません」と言ったといいます。
『怪談』は英語で出版されましたが、そのタイトルは『KWAIDAN』。これを「くゎいだん」と発音します。セツが話す出雲訛りを八雲が耳で聞きとって、本のタイトルにしたのでしょう。