- 発行日 :
- 自治体名 : 愛媛県内子町
- 広報紙名 : 広報uchiko 2025年6月号
■凧文化を若人へ、子どもたちへ――
◇「楽しい思い出として、ずっと心に残ってほしい」
凧師 都築健司(けんじ)さん(81)〔西沖〕
凧師だった親父(おやじ)の跡を継ぎ、地域の子どもたちに凧作りを教えています。子どもたちには楽しんで覚えてほしいから、うんと褒めてあげるようにしています。
子どもの頃に感じた「楽しい、うれしい、できた」という気持ちは大人になっても忘れないものです。私の心の中には、小学生の頃、親父と凧で遊んだ思い出がずっと残っています。親父が作ってくれたのは、大きなだるまの絵が描かれたけんか凧。友達のよりも何倍も立派で、自分のために手作りしてくれたのが、うれしくてたまりませんでした。職人気質で厳しい親父でしたが、この日ばかりは一緒に糸を引っ張って、はしゃいだのを覚えています。この思い出は、私が凧師になるきっかけでもありました。
この凧作りも、子どもたちの心にいつまでも楽しい思い出として残ってほしい。大人になって子どもができたとき、凧を作ってあげたいと思ってくれたらいいですね。なんとなくでも覚えていれば応用は利きます。わが子に凧を作って、一緒に空へ揚げる。親から子へ、子から孫へと続いていけば、凧文化の伝承につながります。後継者を育てるのは簡単ではありませんが、子どもたちに凧作りの楽しさを伝えることはできる。それが継承につながると信じて、子どもたちと凧を作り続けていきたいです。
◇「若人との凧作りが楽しみでしょうがないんよ」
内子百畳凧愛好会会長 上田光明(みつあき)さん(73)〔上町〕
「大凧を作って遊ぼうや」。約40年前、地元の凧名人・奥島重利さんに誘われ、仲間たちと大凧を制作するようになりました。昭和60年に30畳の大凧を制作して以来、50畳、70畳と大きくなり、平成9年から百畳凧の挑戦を始めました。
夢中で作り続けてきましたが、内子百畳凧愛好会の仲間たちも気付けば高齢者。7人にまで会員が減った時もあります。何度やっても揚がらない年が続き、「しんどいけんもう辞めよう」という声も――。負担が大きくなり、いつしか楽しめなくなっていたのです。そんな頃、地元の若人(わこうど)らが心配してくれたのか、制作を手伝ってくれるようになりました。辞めようと言っていた仲間も、若人が入ったとたんに態度が一変(笑)。うれしそうに隣で指示を飛ばしよります。今では20人以上にまで会員が増え、パワーも効率もアップ。活気があって、みんなでする作業がすごく楽しいです。
最高にうれしかったのは若人らが「百畳凧を継ぐよ」と言ってくれたこと。今後、どうやっていってくれるのか、わくわくしています。でも大変さもあるから一緒に背負って、どこまでも手伝いたい思いです。自分たちで楽しむために始めた百畳凧ですが、多くの人たちが心待ちにしてくれるようになり、ありがたいです。来年こそは空高く揚げて会場を沸かせられるよう、また一からみんなで頑張りたいです。
●凧作りをした中学生にインタビュー 自分のまちの凧文化を肌で学べた
宮内煌芽(こうが)さん(五十崎中3年)
五十崎中学校の男子生徒は大凧合戦で毎年、クラスマッチ形式の凧合戦をしています。凧は都築さんに教わりながら自分たちで手作り。凧骨の組み立てや凧糸の結び方など、難しい作業をいつも優しく手ほどきしてくれます。凧文字を描く工程が好きで、大空に揚がったときにくっきりと読めるところが面白いです。凧作りの楽しさだけでなく、五十崎の歴史にも触れられて勉強になりました。
●若人にインタビュー 地元の人と深くつながれるのが裏方の良さ
増原圭一郎(けいいちろう)さん(42)〔下町〕
人手不足を理由に百畳凧が無くなるのは寂しいと思い、裏方に参加するようになりました。裏方の楽しさは人と人とのつながりをものすごく感じられること。みんなで一緒に同じ作業をするから絆が深まるんです。完成した達成感、揚がったときの喜びもみんなで分かち合えていいですね。地域との関わりも増え、以前よりもっと五十崎が好きになっています。
制作では竹の切り出しなどの下準備もあり、目には見えない苦労もあると思います。そこを僕ら若者が混ざってやれば、きっと楽しさに変えられるはず。先輩たちとは何年たっても、冗談を言い合いながら一緒に百畳凧を作っていきたいです。
■五十崎の大空に大凧が舞う景色をいつまでも――
◇凧おどり保存会会長 丸山昌明(まさあき)さん
合戦の激しい空中戦を踊りで表現しています。お客さんが喜んで見てくれるのがうれしくて、30年以上も続けよります。来年も面白おかしく踊って会場を盛り上げるけん、ぜひ皆さん見に来てください。
◇地域おこし協力隊 大⻆昂平(こうへい)さん
地元にいると当たり前に感じるかもしれませんが、400年も続く祭りがあるのはすごいこと。凧文化の魅力をもっと若者や子どもたちに伝えていきたいです。協力隊として、継承へとつながるお手伝いをしていきたいです。
◇いかざき大凧合戦実行委員長 宮﨑敦(あつし)さん
五十崎の男たちを熱くする大凧合戦。白熱した戦いで、今年も大いに沸きました。地元の祭りを自分たちで楽しむのが一番。その楽しさが周りにも広がって、裏方にも参加したいという人が増えるとうれしいです。
◇五十崎中3年 河野桃矢(とうや)さん
3年生になって初めて長い時間、凧を揚げることができました。自分で作った凧を自分の手で揚げるのはすごく楽しいです。思い出の詰まった大凧合戦が、これからもずっと僕らのまちに続いてほしいです。
写真はいかざき大凧合戦や準備を楽しむ人たちの姿を集めたものです。取材では「伝統の灯を消したくない」「凧愛を受け継ぎたい」「大凧合戦が好き」「親から子へと、ずっと続いてほしい」――。そんな思いや願いを込めて、凧文化を守り地域を盛り上げようとする人がたくさんいることが分かりました。そして、その一人一人の思いに大凧合戦は支えられています。実行委員長の宮﨑敦さんは「見るだけでなく参加したり、裏方として関わったりすると、地元への愛着も増し、大凧合戦への思い入れも深まる」と笑顔で語ります。子どもたちに凧作りを教える都築健司さんが「楽しい思い出がいつか継承につながれば」と話すように、大凧合戦での思い出が増えれば増えるほど、凧文化がふるさとに生き続けることにつながるのではないでしょうか。かけがえのない地域の伝統文化をつなぐために、あなたも何かひとつ、関わってみませんか。
※写真は本紙参照
問合せ:いかざき大凧合戦実行委員会事務局
【電話】0893-44-2118