くらし 世界を魅せる伝統の技術(わざ)

長い歴史と伝統を持つ大川の木工産業。
全国に誇れるその技術は、世界中の人が訪れ連日大盛況の2025年大阪・関西万博でも発揮されています。そのなかでも今回は「アラブ首長国連邦(以下UAE)」のパビリオン製作に深く関わった大川の木工業者にお話を聞いてきました。
パビリオン製作の話はもちろん、大川の木工産業への思いを聞かせていただきました。

■みんなが「大川の営業マン」に
〔Q〕UAEパビリオンに携わることになったきっかけを教えてください。
〔A〕最初は2年前の4月に東京の設計事務所から連絡があり、「UAEのパビリオンで使うナツメヤシの木を用意してほしい」と資材調達の依頼でした。話を聞くと、ナツメヤシは中東に多く生えており、その実は日常的に食べられているが、大量に発生する枝葉は廃棄するしかなく、社会問題になっているとのことでした。環境に配慮し、そのような廃材を活用して建築物を作るというUAEパビリオンのコンセプトを聞き、ナツメヤシを取り扱ったことはなかったのですが、とりあえずやってみよう!となったことが最初のきっかけです。

〔Q〕資材を運ぶ上で大変だったことはありますか?
〔A〕5月に打合せをして6月には資材調達のためインドへ渡航したのですが、最初に輸入したナツメヤシの木は、雨期の影響を大きく受けて、長期に渡る輸送の過程でカビだらけになってしまいました。その後は反省を生かし、徹底したカビ対策を施してなんとか問題をクリアし、最終的には40フィートコンテナ110個分ものナツメヤシを運んでくることができました。

〔Q〕資材調達の依頼だったのが、なぜパビリオン製作まで手掛けることになったのですか?
〔A〕UAEパビリオンの工事を請け負った業者から依頼され、資材の材質を大川のインテリア研究所で調査するなどの協力をしていました。その業者はイタリアの会社なのですが、協力する中で大川を案内する機会があり、大川の技術を実際に見てもらいました。その際に、技術を高く評価してもらうことができ、これほど高い技術があるならパビリオン製作まで手掛けてもらえないかと依頼を受けました。悩みましたが、引き受けることで、どこかで誰かが大川のことを知ってくれて、それがきっかけになって大川の木工産業、ひいては大川が少しでも元気になってくれたらという思いから、引き受けることを決めました。

〔Q〕製作過程で大変だったことを教えてください。
〔A〕家具や什器の製作はこれまでのノウハウを生かして対応できましたが、中には歪な形のものもあり、現地でカットするしかないなど問題もありました。そのほかにもVIPルームの施工やパビリオン外のパーゴラ(日陰棚)の製作の際にも、多くの課題がありましたが、大川市内の木工業者をはじめとする多くのつながりを生かし、協力しながら課題を解決することができました。

〔Q〕製作が完了したのはいつですか?
〔A〕最終的には万博開幕の2日前の夜まで作業をしていました。製作を進めるにつれ、気になる部分や修正依頼が多く出てきて、一歩進んで五歩下がるような感覚でした。今後もメンテナンス等はありますが、まずは何より無事開幕に間に合ってよかったです。

〔Q〕UAEパビリオンではどういうところを楽しんでほしいですか?
〔A〕まずは外観のデザインを楽しんでもらいたいです。全面ガラス張りの建物の中に柱が立ち並んでいる様はとてもカッコいいです。ある関係者からは、デザイン性だけでなくストーリー性もあり、おもてなしの精神を感じられ、万博の中でもトップクラスに素晴らしいという言葉もいただきました。海外スタッフには日本ならではのおもてなしの心を理解してもらい、日本人スタッフにはUAEへの派遣研修を実施するなどしていますので、居心地の良さを感じてもらえると思います。

〔Q〕最後に、大川の木工産業について、今後どうなってほしいか思いを聞かせてください。
〔A〕万博での仕事ぶりを見て大川の技術の高さを絶賛してもらいました。それほどに素晴らしいものを持っていますが、現状の木工産業は厳しいものになっています。待っているだけでは現状を変えられないので、どんどん発展していく世間の流れに逆行しないよう、積極的に変化していくことも必要だと思います。
また、横のつながりを大切にして生かしていきたいと思っています。大川全体に仕事があって盛り上がっていかなければ、結局は自分のところも盛り上がりません。そのために周りを巻き込んで一緒に仕事をしたり、お互いにお客様を紹介し合ったりできるような関係性を築いていきたいです。全員がお互いの営業マン、大きく言えば、全員が大川の営業マンになることができれば、大川が全体として盛り上がっていけると思います。これまで木工産業で発展してきた大川だからこそ、また木工産業から盛り上げていきたいです。