しごと 【特集】生涯いちご農家 これが俺の生きる道

■CLOSE UP いちごを作るために行橋へ移住 若者の新たな挑戦と決意
春の訪れを感じ、色鮮やかな美味しい果物が店頭に並ぶ3月。中でも、出会いと別れが交差する甘酸っぱい季節を再現する果物と言えば、いちご。今回は、このいちご栽培のために行橋に移住し、奮闘する若者をクローズアップ。
福岡県は、全国2位のいちごの生産地として知られていますが、県内でしか栽培されないブランドいちごの「あまおう」は、最も人気があり、デザートや贈答品にも多く利用されています。
「赤い、丸い、大きい、うまい」の頭文字を取って名付けられたあまおうを、南泉のハウスで栽培しているのは、岩田峻(しゅん)さん(33)です。現在、就農7年目。農業大学校を卒業した岩田さんですが、26歳までJAの営農指導員として働いていました。担当する農家の方の熱い心に触れ、自身もいちご栽培を行いたいという思いが芽生え、退職と就農を決意しました。「やりたい!という思いがあるのなら、若い頃に始めた方がいい。」と、当時担当していた農家の方にアドバイスをもらったことが岩田さんの肩を押しました。
あまおうは、いちごの中でも非常に人気が高く、絶大なブランド力がありますが、栽培が難しいことでも知られています。あまおうは病害虫の被害を受けやすく、葉や果実に黒い斑点ができる炭疽(たんそ)病に弱い品種です。この病気を防ぐために、適切な環境管理や衛生管理、抵抗性品種の選定、農薬の適切な使用など、栽培にとても手間がかかります。手間はかかりますが、収穫された果実の甘みや旨みは格別です。また、あまおうには独自のブランド等級があり、甘さ、色艶、形、大きさなどで選別されています。等級には、エクセレント、デラックス、グランデがあり、最上ランクの「エクセレント」は色形の綺麗なものに限定されます。病気に強く、より良い等級のものをシーズン中安定して届けるために、岩田さんは日々研究を重ねています。県内では、こうしたいちごの魅力に取り憑かれた生産者が、全国に誇れるブランドいちごの栽培に励んでいます。岩田さんもまた、その魅力に取り憑かれたひとりです。
築上町出身の岩田さんは、脱サラ後、いちごづくりのために行橋市へ移住。先輩農家の下で修業をしました。修業をしながら、作業の合間に先輩に手伝ってもらい、ハウスを建てたと言います。複数のハウスが一体となった連棟ハウスの建設は、ハウス業者に依頼することが常識ですが、資材を仕入れ、ふたりで建設したとは実に驚きです。
初年度は、いちご栽培に重要な「花芽分化」を確認せずに植えてしまい、半分以上実がつかなかったという失敗もありました。また、台風や大雨などの災害、水やりの管理など天候のことを常に気にかけなければならず、外出の予定を立てづらい点が大変だと言います。3月~4月の収穫ピーク時は、夜遅くまで出荷の準備をする日が続きます。5月はさらに出荷と育苗が重なり、1年で最も忙しい時期がやって来ます。
「細かな作業に労働時間も長く、体力的に辛いこともあります。しかし、毎年無事にいちごの収穫を迎えたときは、ほっとします。収穫の喜びを感じます。営農指導員として働いていたからこそ、規格に準じた綺麗なものを出荷したいと心がけています。農業歴はまだ浅いですが、先輩方に負けない品質のものを皆さんに届けたいと努力しています。」とお話してくれました。
さらに今後の展望について、こう続けました。「2~3年以内に、ベンチの上で栽培を行う高設栽培にシフトしたいです。高設栽培で作業効率を上げ、長期的に規模を拡大していきたいと考えています。今後さらに資材の高騰など懸念されますが、『生涯いちご農家』としてやっていきたいと思っています」。
現在、今井の京築恵みの郷ゆくはし店では、たくさんのいちごが直売所を賑わせています。この中に、人生をいちごに賭けた若き挑戦者、岩田さんのいちごも並んでいます。ぜひ、ご賞味ください。