文化 シリーズ人権

■「ノーモア・ヒバクシャ」に込められた思い
昨年12月、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が、ノーベル平和賞を受賞しました。日本被団協は、広島や長崎の原爆で被害を受けた生存者たちによって結成された組織です。被爆した体験談を通して、国内外に対し核廃絶を訴えてきました。
被爆者たちの歩みは、苦しみの歴史でした。原爆が投下された1945年の年末までに、約21万人が命を落としました。生き残った人たちも、原爆の後遺症に苦しむだけでなく、差別や偏見を恐れて口をつぐみ続けていました。その後、ある事件を契機に状況が変化します。アメリカの水爆実験で日本の漁船員が被爆した事件です。このことで核廃絶の機運が高まり、後に日本被団協が誕生しました。1982年、日本被団協代表委員の山口仙二(せんじ)さんによる「ノーモア・ヒバクシャ」のフレーズで知られがりかねません。今回のノーベル平和賞の受賞は、核兵器が二度と使用されてはならないことを、証言によって示してきたことが主な受賞理由です。現在の世界情勢において、核の危機が高まる中での受賞は、原爆や核兵器について、一人ひとりが当事者目線に立った自分事として見つめ直すきっかけになります。
原爆や戦争という過ちを繰り返さないために、21世紀を「人権の世紀」と呼ぶようになりました。今年は戦後80年、先人の「ノーモア・ヒバクシャ」の思いを深く考える節目の年です。また、被爆者なき時代が近づきつつある中、次世代へつないでいくことの大切さをより強く感じる年でもあります。