くらし [特集]神埼に息づく、小さな郷土の伝統「尾崎人形」

神埼町尾崎地区に伝わる郷土玩具「尾崎人形」。赤・青・黄の伝統色をあしらったやさしい色合いと、どこか懐かしさを感じる表情が魅力の焼き物人形です。かつては途絶えかけたこの伝統を、いま再び受け継ぎ、未来につなごうとする人がいます。地域に根づく手しごとの歴史と、それを守り伝える人々の想いをご紹介します。

尾崎人形は、神埼町尾崎地区に古くから伝わる焼き物の人形です。もともとは、瓦や火鉢などを焼く「尾崎焼」のかたわらで作られていました。その起源は鎌倉時代・1281年の弘安の役(元寇)にさかのぼります。捕虜となった蒙古兵が親切にしてくれた地元の人々に焼き物の技術を伝えたのがはじまりとされ、やがて尾崎焼は地域の産業として発展。江戸時代には佐賀藩から幕府への献上品にもなりました。

時代の流れとともに尾崎焼は次第に数が減り、人形づくりも途絶えていましたが、平成2年(1990年)に保存会が結成され、尾崎人形を守り伝えていく活動がはじまりました。その後、現在の保存会・髙栁政葊さんが型や窯を継承。2019年からは尾崎人形に魅せられて尾崎へ移住した城島正樹さんが製作を受け継ぎ、佐賀一品堂として卸販売の管理も行なっています。

「尾崎の人が作っていることが、尾崎人形の大切な条件です」と話す城島さん。作り手が代わっても、赤・青・黄の伝統色を使ったやわらかなデザインや、手に取った人がホッとするような愛嬌ある表情は変わりません。笛を吹くと「ホーホー」と鳴る土笛や、やさしい音が響く土鈴など、子どもが喜ぶ工夫も施されています。現在は約40種類のバリエーションがあり、すべて手作業で作られているため、表情や音色にもひとつひとつ個性があります。作り手の人柄がにじむ素朴な作風は、県内外にとどまらず、海外から訪れる旅行客にも親しまれています。最近では、全国に店舗を展開する雑貨店やショップからの注文も増えているそうです。

一方で、あらためて地域に根差した歴史を見つめ直そうという動きもあります。「今後は、地区の年配の方々から、尾崎人形の歴史や背景についてさまざまな角度から話をうかがい、“尾崎人形とは何か”を改めて整理したうえで、次の世代が本業として受け継げる仕組みを整えていきたい」と城島さんは話します。
「人から愛される尾崎人形であってほしい」と語る髙栁さん。この言葉には、尾崎人形を大切に受け継いできた人たちの想いが、静かに息づいています。時代を超えて守られてきた尾崎人形は、これからも地域の誇りとして、その魅力をさらに多くの人へと届けていくことでしょう。

◆尾崎人形 手作り体験
8月5日と8月18日に開催されました。
本紙19ページに当日の様子が記載されています。