子育て 〔特集1〕まちを支える人 #4 (1)

■壱岐の高校生の未来を拓く、新たな学びの挑戦
壱岐市では、地域と高校が一体となり、新たな学びの形を模索する取り組みが始まっています。地域連携や外部の専門家からの学びを通じて、壱岐の高校生たちはどのように成長し、未来を切り拓いているのでしょうか。今回は、教育の現場で活躍する5名の方々に壱岐の教育についてお話を伺いました。

○高校地域連携コーディネーター 森下 祐樹(もりした ゆうき)さん
Q:高校地域連携コーディネーターとして、どのような役割を担っていますか。
高校と地域(行政)の間に立ち、先生方と協議をしながら、高校の教育活動と、地域をつなぐ役割を担っています。地域との連携により、社会の変化に対応した質の高い学びの環境が保たれ、島内外から生徒が集まり続けることは、高校が魅力的に存続し、人口減少対策にもつながります。また、高校生にとって、学校外での活動や地域での学びは、卒業後の進路選択のヒントを得られる貴重な機会にもなります。

Q:具体的に、どのような取組を行っていますか。
壱岐高校では「総合的な探究の時間」の授業、「ヒューマンハート部探究チーム」の部活動、壱岐商業高校では「総合的な探究の時間」「課題研究」の授業、「情報メディア部」の部活動での取り組みに関わっています。具体的には、探究テーマ設定のためのフィールドワークやインタビュー、ゲスト講師を招いてアイデアづくりのためのワークショップ等を企画・実施しています。また、アイデアをブラッシュアップし、市民向けに最終発表を行う機会として、高校生の市民対話会への参加も促しています。

Q:これまでの高校での取り組みで印象に残っていることについて教えてください。
壱岐商業高校の「課題研究」の授業の一環で行われた勝本でのマルシェ企画の1年目が印象に残っています。前例がない中、先生方や授業のサポートに入っている大学生、地域の方々の協力も得ながら、高校生が企画案づくりから、当日の運営までを全てやり切りました。その後も恒例イベントとして継続し、今年で4年目を迎えます。昨年度は、1年目に高校生として企画に関わった卒業生が、大学生として出店しました。このように高校時代の活動を契機に、卒業後に地元を離れても継続して関わるような卒業生が増えることを目指しています。

Q:今後目指す姿について教えてください。
壱岐では、協力してくださる地域の方々のおかげで、高校生のアイデアをすぐ試せる場所や実社会につながる学びの機会が豊富にあります。今後は、より日常的に高校生の活動が地域からも見えるようになり、高校生も地域との接点が持ちやすくなるような場づくり、仕組みづくりに取り組んでいきたいです。その先には、高校生の主体性や地域への愛着が育まれることに加え、地域にとっても若い世代の視点や発想が日常的に取り入れられることで、新たな動きが生まれる好循環にもつながると考えています。

○一般社団法人 i.club 代表理事 小川 悠(おがわ ゆう)さん
Q:一般社団法人i.clubの活動について教えてください。
平成24年度から、中高生の学びに「イノベーション教育」を届けています。イノベーション教育とは、「こんな未来をつくりたい!」という想いを形にするアイデアを考え、その実現に向けてチャレンジする学びです。私たちは、このチャレンジの舞台を地域に置くことで、中高生が地域の魅力や面白さを発見し、地域とのつながりを深め、愛着や誇りを育んでほしいと考えています。
壱岐でも、この取り組みを通じて、高校生が未来を描き、行動するきっかけをつくっています。全国各地でも同じように、地域と若者が一緒に未来をつくる場を広げています。

Q:壱岐イノベーション・サマーコンテスト2025について教えてください。
壱岐イノベーション・サマーコンテストは、壱岐の高校生が夏休みの2日間で、地元・壱岐を舞台に「未来をつくるアイデア」を考え、発表し、競い合うコンテスト型のプログラムです。
今年は、オリーブ園や鮮魚店などを訪れるフィールドワークも実施し、現場での体験や人との出会いから着想を得て、地域に根ざしたアイデアが次々と生まれました。
今年の大賞は、「オリーブ葉摘みボランティア計画」です。壱岐オリーブ園での体験をきっかけに、「栄養価が高く、多くの可能性を秘めたオリーブの葉があまり知られていない」という課題に着目し、若い世代がボランティア活動を通してオリーブの葉を学び、活用の可能性を広げていく仕組みを提案しました。この取り組みは、地域資源の新たな価値発見と若者の参画を同時に実現できる点が高く評価されました。
プログラム後、参加者からは「たくさんのことを知れて、初めてのプレゼンも楽しかった。これからもこういう場があれば頑張りたい」「壱岐のことをあまり知らなかったけれど、たくさんの魅力を知ることができた」などの声が寄せられました。
こうした変化の一つひとつが、若者が地域と関わり、未来を描く大きな一歩となっています。

Q:今後の目標や壱岐の高校生への期待を教えてください。
壱岐の高校生へのイノベーション教育は、今年で9年目を迎えました。これまで参加してくれた高校生、地域の皆さんに心から感謝しています。
今後も、プログラムで育まれた高校生たちの力、地域の方々の力をお借りしながら、この取り組みを継続的に発展させていきたいと考えています。壱岐の魅力は、何といっても豊かな地域資源と、その未来をつくるチャレンジをしている人たちです。だからこそ、この壱岐を舞台にしたイノベーション教育を高校生だけでなく中学生にも届け、未来へとつなげていける環境をつくっていきたいと思っています。