- 発行日 :
- 自治体名 : 熊本県阿蘇市
- 広報紙名 : 広報あそ 2025年2月号
■公立病院の挑戦 脳卒中に立ち向かえ
阿蘇医療センターは公立病院として、民間の医療機関では担うことが難しい不採算部門を引き受け、地域医療の砦としての役割を果たしています。
その中の1つが、脳卒中など高度な設備や専門性を必要とする病気への対応です。センターは開院以来、脳卒中から市民の命を守るためのさまざまな取り組みを進めてきました。
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる病気です。日本人の死因の4位にもなっているほど身近なものです。脳卒中が起こると、脳の一部が酸素や栄養を受け取れなくなるため、早急な治療が必要です。適切な治療が遅れると命に関わるだけでなく、重篤な後遺症を残すことがあります。阿蘇医療センターでは、最新の医療技術と医療ネットワークを駆使して、さまざまな取り組みを行ってきました。
◆Drip and Shipの導入
阿蘇医療センターでは脳卒中の患者に対する治療として「Drip and Ship」という方法を導入しました。この方法では、センターで救急搬送された患者の初期治療を行い、t-PAという薬を点滴しながらより大きな病院に患者を搬送します。t-PAは、血管に詰まった血栓を溶かす薬で、発症から4・5時間以内に投与しなければなりません。この方法により迅速に治療を開始し、必要に応じて専門的な治療を受けることができるようになりました。
t-PAの早期投与を可能にしたのは熊本大学病院との連携でした。大学病院の専門医が、脳卒中患者を受け入れたセンターの医師から情報を受け取り、遠隔でt-PAの投薬を指示します。これにより、センターに専門医がいないときでも、t-PAを投与することが可能になりました。
◆阿蘇熊本クロスモデルの導入
令和3年には阿蘇広域消防本部、熊本赤十字病院と連携し、新たに「阿蘇熊本クロスモデル」を導入しました。脳卒中が疑われる患者の状態を救急隊がJUST-7スコアというツールで評価し、搬送先を決定する仕組みです。
現場の救急隊員が、血圧や不整脈、頭痛、意識障害などの患者の状態に関する7つの項目を専用のスマートフォンに入力すると、脳卒中の可能性に関する判定結果が表示されるというもの。救急隊員はこの結果に基づいて、どの病院に患者を搬送するかを決定します。脳内出血やくも膜下出血など、センターで対応できない病気の可能性が高い場合、直接熊本赤十字病院に搬送します。
◆阿蘇熊本クロスモデルの利点
これまでは救急隊員が患者の体に関する観察結果を病院に伝えて搬送先を決定していました。救急車が多く出動しているときなどは救急救命士が対応することができず、搬送先の判断が難しい場合もありました。また、センターに搬送しても処置困難な症例は、再度熊本市内の専門病院に搬送することで治療開始までの時間がかかってしまうこともありました。
「阿蘇熊本クロスモデル」では、現場の救急隊が迅速に適切な搬送先を判断できるため、治療開始までの時間が大幅に短縮されます。早く治療を開始することで、後遺症を減らし、命を救うことができます。
実際に現場でツールを使用する同消防本部の野口隆史救急隊長は「脳卒中が疑われる症状がいつ発症したのかわからないときなど、必要な情報があまり得られなかった時でも搬送先に関する判断がしやすくなった」と話します。
◆阿蘇熊本クロスモデルの未来
救急隊と医療機関の連携は、脳卒中以外の症例にも広がる可能性があります。同消防本部では現場での患者の状況を専用のスマートフォンを使ってセンターや他の医療機関と共有する仕組みも検討が進められています。
この阿蘇熊本クロスモデルは他の地域への広がりも見せています。天草地域と有明地域では阿蘇のモデルにならった実証実験が行われました。
急病やけがなどの救急医療も民間の医療機関だけでは担うことの難しい、いわば不採算部門です。そして、阿蘇医療センターは阿蘇圏域の救急搬送のうち約60パーセント近くを受け入れています。こうした状況の中、市民の命を守るために脳卒中と向き合ってきたセンターの知恵と工夫が生み出したのが阿蘇熊本クロスモデルです。阿蘇から始まったこれらの取り組みは、これからの地方における救急医療の新たなスタンダードとなる可能性を秘めています。
▽阿蘇地域の救急搬送先の内訳
※令和4年1月1日~12月31日
※阿蘇広域消防本部管内搬送のみ