くらし 高嶺の花を追って 高岳のミヤマキリシマ

阿蘇五岳のひとつ、高岳。その山肌がかすかに明るみ始めるころ、登山者たちは静かに歩みを進めていく。目的地は、標高1592メートルの山頂―の、さらに先。根子岳を望む東峰のあたりだ。
6月のはじめごろ、この場所には特別な風景が広がる。それが、ミヤマキリシマである。

■過酷な環境に咲く
ミヤマキリシマは、九州の高山に自生するツツジの一種。5月から6月にかけてが見頃で、標高の高い場所ほど開花が遅くなる。
高岳東峰周辺では、岩場の間や風を受ける斜面に、鮮やかな紅紫色の花が点々と咲く。ミヤマキリシマは、火山の近くや風の強い斜面など、他の植物が根づきにくい環境に咲くことが多い。特に高岳東峰のような標高1500メートル級の高地では、その姿がいっそう印象的に映る。
厳しい環境でも、毎年この時期に花を咲かせる。その姿は、見る人の心を打つ。

■夜明けの光の中で
日の出は、およそ朝5時。東の空が白み始めると、ミヤマキリシマの花びらも少しずつその色を変える。赤みを帯びた光が花々に差し、空気はぴんと澄み渡る。
やがて、根子岳の向こうから太陽が顔を出す。風が止み、一瞬、あたりが静まり返る。
その瞬間、高岳の花々はまるで光を浴びて目覚めたかのように見える。

■まさに「高嶺の花」
過酷な環境に咲き、咲く時期も限られている。しかもその姿を見るには、登山という労を要する。
ミヤマキリシマは、まさに「高嶺の花」とも言える存在である。
華やかでありながら、簡単には手の届かないところに咲く。だからこそ、その美しさが強く心に残るのかもしれない。

■夏を迎える阿蘇で
花の盛りが過ぎると、東峰には再び、無骨な火山の表情が広がる。だが、ほんのわずかな間に見せたその光景は、多くの登山者や自然愛好家の記憶に残るだろう。
阿蘇の夏はこれから本番を迎える。青空と風が、また違った山の表情を見せてくれる季節だ。
次に高岳を訪れるとき、そこにはどんな風景が待っているのだろうか。